研究科公開発表平成24年度

平成25年2月12日(火)、平成24年度 公開発表会が開催され、大学院2年生10名の研究が発表されました。それぞれの発表を紹介します。すべての研究は、関西医療大学倫理委員会の承認を得て、対象の方からの同意を得て実施されています。


「変形性膝関節症に対する円皮鍼治療の臨床的効果 -Randomized Controlled Trial-」 内山 卓子

 

円皮鍼治療が変形性膝関節症(膝OA)患者の痛み、こわばり、日常生活動作(QOL)にプラセボ円皮鍼(P鍼)より改善するかを検討した。関西医療大学附属診療所で膝OAの診断を受けた50歳以上の患者。ただし①レントゲン検査所見で北大分類Ⅴ(亜脱臼)の者②関節リウマチを合併している者③膝部外科手術の既往を有する者④重篤な慢性疾患を有する者⑤医師が研究参加に不適当と判断した者は除外した。研究への参加登録後、乱数表を用いてランダムに円皮鍼群、プラセボ円皮鍼群(P群)に分けた。参加者は両群とも研究以前の治療の影響をウオッシュアウトするため登録後2週間は無治療とした。毎回、膝関節周辺の経穴10穴(陽陵泉、陰陵泉、足三里、曲泉、梁丘、陰谷、血海、膝関、外膝眼、内膝眼)足関節周辺の経穴4穴(三陰交、太谿、懸鐘、崑崙)に圧痛計を使用し対象経穴を徐々に圧し、最大1.5㎏/c㎡までに圧痛のあった1~5箇所を治療穴とした。円皮鍼群には円皮鍼、P群にはプラセボ円皮鍼の治療をそれぞれ週2回(計8回)1か月間貼付した。円皮鍼貼付期間は次回までで原則として施術者が抜鍼した。治療前後で両群の結果指標を比較した。主観的評価はWOMAC(Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index)、VAS(Visual Analogue Scale)で行った。客観的評価は25m歩行時間、9階段昇降時間でそれぞれ治療前に所要時間を記録した。WOMAC値(総合)は両群で改善が認められた。痛み・こわばりではP群が、QOLでは円皮鍼群が改善した。VAS値はP群のみ改善した。25m歩行時間は円皮鍼群で、9階段昇降時間は両群でタイムが短縮した。ROMは円皮鍼群で改善し、JOAスコアは両群で減少した。有意差は認められなかった。有害事象は報告されなかった。円皮鍼群、P群で同程度の治療効果が得られた。この結果からプラセボ円皮鍼にある程度の生理的活性があった可能性が考えられる。また、問診を丁寧にすることや圧痛部位を把握し治療したことで患者の安心感、期待感が得られ自律神経系等に作用し結果に影響したと思われた。


「サッカー選手に対する足関節テーピングの効果 ―バランス能力に着眼して― 」貞方 勇祐

 

過去に重篤な下肢の傷害の既往が無い、男性大学生サッカー選手(18~22歳)17名33肢を対象として、足関節捻挫の予防を目的として用いられる、足関節へのテーピング施行がバランス能力に対して与える効果について重心動揺計を用いて検討した。非伸縮性のテープを用いて足関節を固定し、テーピング前/テーピング施行直後/練習後の3回、閉眼片足起立時のバランス能力を重心動揺計(アニマ社製 ツイングラビコーダ GP-6000®)を用いて測定し、検討した。テーピング時に、一定の制動性を確認する目的で超音波画像診断装置(GE Healthcare社製LOGIQe®)を用いて前方引き出し負荷をかけた状態で腓骨?距骨間距離を測定し、上記の経時変化を確認した。また、非伸縮性のテープを用いて、著明にバランス能力の改善が認められた3名5肢に対して、伸縮性のテープを腓骨筋の走行上に貼付し、上記と同様の項目を測定し、検討した。重心動揺計と超音波画像診断装置での測定により得られたデータの比較には対応のあるt検定にて有意水準を5%未満とした。超音波画像診断装置での測定で得られた結果から、各試行の間に有意な差は認められなかった。重心動揺計での測定結果は、テーピング施行直後に総軌跡長に改善がみられたものの個人差が大きく、各試行の間に有意な差は認められなかった。伸縮性のテープを貼付した3名5肢では例数が少ないため統計学的な検討は行っていないが、全ての例で総軌跡長においてテーピング施行直後に改善がみられ、5例中4例が運動後においても同様の改善がみられた。本研究の結果、全ての人に共通して効果的なテーピング方法は存在せず、テーピングを行う際には何を目的として行うのか、できるだけ客観的な裏付けによってアプローチする必要性がある。


「電子温灸による皮膚血管拡張反応に及ぼすNO合成酵素阻害剤ならびにCOX阻害剤の影響」 竹内 勇人

 

健康成人男性25例を対象に、電子温灸による皮膚血管拡張反応への一酸化窒素(NO)およびプロスタグランジン(PG)の関与について検討した。プロトコール1では電子温灸による皮膚血管拡張反応の部位差と全身の循環動態への影響について、プロトコール2ではNOの関与について、プロトコール3ではPGの関与について検討した。ベースラインを10分間記録した後、電子温灸は20分間行い、回復期を20分間測定した。加温部の皮膚血流量は平均血圧で除した皮膚血管コンダクタンス(CVC)を評価した。結果、プロトコール1では部位差がないこと、全身の循環動態への影響がないことが確認された。プロトコール2ではL-NAME投与部でCVCの増加がコントロールに比べて有意に減弱した。プロトコール3ではKETO投与部とコントロールで有意差は認めなかった。これらの結果から電子温灸による皮膚血管拡張反応にはNOが関与しているが、PGの関与は少ないことが示唆された。


「月経周期中の頭痛及び随伴症状に対する耳鍼刺激の効果」林 遼平

 

月経関連症状に対してアンケート調査(研究Ⅰ)および耳鍼による月経周期中の頭痛及び随伴症状に対する治療効果について検討(研究Ⅱ)した。研究Ⅰ:女子大学生163名を対象に月経周期中に表れる症状の種類、頻度のアンケート調査を行い、157名(96.3%)から回答を得た。一般化マンテル法では、月経前より月経中に「下腹部痛」、「腰痛」、「拒食・過食」、「吐き気」、「むくみ」および「服薬」の項目で現れる頻度が高かった。数量化Ⅲ類では、片頭痛様症候に対して薬を用いていた。研究Ⅱ:女子大学生4名を対象として無治療期間1か月のコントロールの後、治療を3か月行った。耳鍼の留置は月経約1週間前から月経終了までとした。治療効果は、主観的な評価のVAS値と日誌、客観的な評価としてPainVision○Rを用いて評価した。PainVision○Rでの測定値は耳鍼効果と相応して、平均的な閾値が最も高いもの1名(143.81)は軽快傾向、中間値のもの2名は著効(122.15)と軽快(113.14)、最も低い(99.97)1名は無効で、月経諸症状が多彩であった。アンケート調査の結果、片頭痛様症候に対して服薬している傾向があった。次いで、それに対する耳鍼療法を試みて、良好な結果を得た。PainVision○Rによる疼痛閾値の平均値が耳鍼に対する個人の感受性を知る指標として有用と思われた。


「立位における上肢遠位関節運動時の予測的姿勢制御」 丸岡 祥子

 

あらゆる運動が生じる際には、その主動作に先行した予測的な姿勢制御の機能が求められると報告されており、これを先行随伴性姿勢調節(以下、APA )という。研究1では上肢の遠位関節運動時COPの前後方向移動パターンに着目して検討し、研究2ではCOP移動のパターンと、実際に生じる上肢運動との関係性を明らかにする。研究1は、健常男性10名(平均年齢23.8歳)、研究2は健常男性9名(平均年齢24.2歳)を対象とした。重心バランスシステムJK-310(ユニメック社製、以下重心計)上で右肩関節・肘関節120°屈曲位で右示指を側頭部に触れる立位姿勢から、1)出来るだけ速い速度で肘関節を伸展する(以下、速い課題)と、2)1秒以上2秒未満で肘関節を伸展する (以下、遅い課題)の二種類の速度で右肩関節屈曲位を保持したまま右肘関節を伸展し、前方の対象物に指尖を触れた。研究1より、COPの前後方向への移動において、速い課題ではCOPは動作直前に後方に、遅い課題では動作直前に前方に移動するという結果であった(p<0.05)。研究2より、速い課題における平均角速度は、動作開始直前にCOPが前方に移動したパターンのほうが後方に移動したパターンよりも有意に大きな値を示していた(p<0.05)。本研究より立位において前方に肘関節を伸展する場合では、動作開始直前のCOP移動というAPAが生じる可能性が示唆された。また動作直前にCOPが前方に移動する場合においてはより速い角速度を呈することが明らかとなった。


「健常者および脳血管障害片麻痺患者における下肢H波、F波出現様式 
―麻痺側下肢の神経機能との関連性―」 山下  彰

 

健常者(30名)と脳血管障害片麻痺患者(26名)のH波、F波出現様式の特徴と神経学的検査成績との関係を検討した。健常者はH波とF波が混在するパターン(タイプ3-A)と、H波の後方にF波が出現するパターン(タイプ3-B)を示した。症例は、F波のみ出現するパターン(タイプ1)とタイプ3-Aとタイプ3-Bを示した。健常者は、F波とH波の衝突によるものとH波で構成されないインパルスの逆向性伝導でF波が混在したと考察した。症例では、タイプ1は、腱反射が全例で低下し、上位中枢の興奮性が低下している症例であることが考えられた。タイプ3-Bは腱反射が亢進し、筋緊張も全例亢進し、MAS1+の症例がタイプ3-Aに比べて多く、筋短縮もあるが痙縮の要素を多く含んでいることが考えられた。運動機能評価とH波、F波出現様式の変化は脳血管障害片麻痺患者における客観的な機能評価になると考えられる。


「下行性抑制ニューロン(5-HT系およびNA系)は脊髄後角の深層ニューロンを興奮させる:
パッチクランプ法による解析」 和田 達矢

 

脊髄後角で中継される侵害情報は、脳幹由来のセロトニン(5-HT)系およびノルアドレナリン(NA)系の下行性ニューロンにより抑制されるという。本研究では、その神経メカニズムについて、ラットの新鮮脊髄スライス標本を用いてパッチクランプ法により検討した。脊髄後角の深層において、記録した約40%のニューロンは5-HTに対して、slow inward current(ゆっくりした内向き電流)を示し、主に5-HT6/7受容体を介していることが分かった。アドレナリンの投与に対しては、約20%のニューロンがslow inward currentを誘発し、α1受容体の関与が重要であることが分かった。更に、これらのニューロンのほとんどはサブスタンスPに応答することも分かった。以上の結果より、脳幹由来の5-HT系およびNA系ニューロンは、侵害情報を司る脊髄後角ニューロンを興奮させることが明らかになった。


「等尺性収縮を用いた母指対立運動の運動イメージ収縮強度の違いが脊髄神経機能の興奮性に与える影響 
―収縮強度10、30、50%による検討―」 文野 住文

 

健常者15名(男性9名、女性6名)、平均年齢25.4歳を対象として、運動イメージする筋の収縮強度の違いが脊髄神経機能の興奮性変化に与える影響について、脊髄神経機能の興奮性の指標とされるF波により検討した。安静時、ピンチメータセンサーを軽く把持しながら母指対立運動をイメージした状態(最大収縮の10%、30%、50%収縮強度を別日に実施)、運動イメージ直後、5分後、10分後および15分後の各時点でF波を測定し、F波出現頻度、振幅F/M比および立ち上がり潜時について条件間で比較した。F波出現頻度、振幅F/M比は、全ての収縮強度の運動イメージ試行時において、安静試行時と比較して有意に増加した(p<0.01)。運動イメージ試行、運動イメージ直後、5分後、10分後、15分後の順に安静試行を1としたF波出現頻度相対値、振幅F/M比相対値および立ち上がり潜時相対値を求め、対応する試行について、3つの収縮強度間で比較した。F波出現頻度相対値、振幅F/M比相対値、立ち上がり潜時相対値において、全ての試行間に有意差を認めなかった。収縮強度10%、30%および50%を用いた運動イメージは、脊髄神経機能の興奮性を増加させることが示唆された。さらに、運動イメージする筋の収縮強度の違いは、脊髄神経機能の興奮性変化に関与しない可能性が示唆された。運動療法において、運動イメージは、日常生活における上肢機能の改善や筋力増強の前段階として用いることが可能である。その際、運動イメージする筋の収縮強度は、最大努力の10%で十分である。


「アロマテラピーが上肢脊髄神経機能の興奮性に与える影響について」 由留木 裕子

 

ラベンダーの刺激が上肢脊髄神経を介して、筋緊張にどのような影響を及ぼすのかについてF波を指標として検討した。研究1(精油1滴):健常者18名を対象とした。被験者に酸素マスクを装着し安静をとらせた。次にフリーザーバッグ内のティッシュペーパーにラベンダーの精油を1滴滴下し、ハンディーにおいモニター(OMX-SR)で香りの強度を測定した。フリーザーバッグをマスクに装着し2分間自然呼吸を行わせた。F波測定は安静時、吸入開始時、吸入1分後、吸入終了直後、吸入終了後5分、吸入終了後10分、吸入終了後15分で行った。F波分析項目は、出現頻度、振幅F/M比、立ち上がり潜時とし、安静時試行と各条件下の比較を行った。また、アロマテラピーの経験あり群と経験なし群にわけ同様な検討を行った。実験後、匂いの好き嫌いについてアンケート調査を行った。安静時と比較して吸入終了後10分(p<0.01)、15分(p<0.05)において、F波出現頻度の有意な低下を示した。アロマの経験の有無によるF波変化に有意差はみられなかった。研究2(精油3滴):健常者26名を対象として、研究1と同様の流れでラベンダーの精油3滴滴下の条件で実施した。安静時と比較して吸入終了後5分、10分、15分において、F波出現頻度が有意に低下した(p<0.01)。アロマの経験のない方では出現頻度において、ラベンダー吸入1分後は安静時と比較して増加傾向を示し、吸入終了後5分、10分では安静時と比較して有意な低下を示した(p<0.01)。振幅F/M比はラベンダー吸入開始時、吸入1分後は安静時と比較して有意に増加を示した(p<0.05)。研究1、研究2のアンケート調査の結果、今回用いたラベンダーは全員が好きな香であると答えた。上肢脊髄神経機能の興奮性を低下させたい場合はラベンダー刺激終了後に理学療法を行えば、治療効果を高める一助となる可能性があると考える。アロマテラピーの経験がない者において3滴でのラベンダー刺激中は上肢脊髄神経機能の興奮性が増加し、刺激終了後は上肢脊髄神経機能の興奮性が抑制することが示唆された。


「うつ病に対する原穴への円皮鍼の効果 ―n-of-1― 」 小森 加都江

 

うつ病の全体の1/3は部分寛解また寛解に至らないと言われ、うつ病は寛解と再燃を繰り返す疾患である。本研究では、短時間で行える円皮鍼を使用し、再燃性が予防できるかn-of-1 無作為化試験で検討した。4週に1度の治療を鍼治療6回とSham鍼6回計12回行い、施術者に分からないように二重盲検試験を使用した。評価方法として、BDI-Ⅱ(日本語版Beck Depression Inventory-Ⅱ:日本語版BDI-Ⅱ)を用いて検討し、R検定を実施した。鍼治療の後はBDI-Ⅱは改善しながったが、sham鍼の後は逆に2点悪化した。その結果、鍼とsham鍼の差は0.8になった。全924通りの組み合わせ中、差が0.8になるものが100通りあり、有意差はなかった。被験者は元々ハミルトン・BDI-Ⅱ共に点数が低いことから有意差は出なかったと考えられるが、集中困難では有意ではないが改善が認められ、月に1回の円皮鍼をうつ病の治療に併用することで患者を心身両面から改善に導く可能性がある。


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