2017年01月18日
平成29年度 年頭のあいさつ
皆さん、明けましておめでとう御座います。
今年の干支は、「酉」です。はばたくという意味で、「飛躍の年」と言われます。皆さんは、もう初詣に行かれたかと思いますが、神社には絵馬が飾ってあります。
京都の私の住む嵐山の近くに松尾大社があります。今年は、十二支の絵馬を懸命に完成させた後、末期ガンで亡くなったある版画家の「鶏の大絵馬」が掲げられました。このあとも干支が一巡シするまで、その版画家の絵馬を飾る予定だそうです。「酉」の氵(さんずい)を付ければ「酒」と言う字になります。同大社は酒造りの神を祭る神社でもあります。何か正月の酒は陽気で、この絵馬の朝を告げる鶏にあやかり、「酉年をきっかけに、社会が明るくなれば・・・」との願いが込められています。
「酉」にあやかって、もう一つ余談ですが、前前学長の八瀬善郎先生は、ご自宅を「鯤亭」と言われています。鯤というのは、『荘子』の内編第一編「逍遥遊」、悠然と物事にこだわらず遊ぶという意味ですが、その話の中に出てくる暗い海に住む大きな魚を意味しています。魚(へん)に昆虫の「昆」と書きます。
もともとは、小さな魚、まだお腹から出ていない「はららご」を意味したようですが、それが巨大な鳥、いわゆる大鵬となって、大海原に大風を巻き起こして舞上がり、何にも捉われず、九万里の天空、宇宙に飛び上がる話です。ちなみに、かつての横綱大鵬の名はここから由来するそうです。
そして、さらに驚いたことに荘子は、大鵬の目を通して地上を見返した時、地球は蒼蒼としていたと述べています。やっと人類が月に到達し、「地球は青かった」と述べたガガーリンの二千数百年前、紀元前にすでに壮大な創造力をもって、地球を見ていた荘子の壮大な見地には全く驚かされます。
さて、ここで寓話の世界を離れて、現実の世界に戻りたいと思います。昨年は、皆さんのお蔭で、本学として第2回目の「認証評価」を受け、「可もなく不可もなく」と標準的で、無難な評価を受けています。大学としての基礎は出来ているとの評価でしょうか。しかし、残された課題は、まだまだ多あります。
私学として建学の精神「社会に役立つ道に生き抜く奉仕の精神」のもと、どう独自性を持った大学として築きあげるか、他の大学とどこが違うのか、どこに本学の存在価値があるのか、を明確にしていくことです。すなわち、本学が、これから2018年問題としてやって来る少子化による社会変動、すなわち、高度成長時代の高潮の頂点を過ぎてやってくる深刻な引き潮の力に抗して生き抜くためには、全員が一体となるための羅針盤、指針が必要です。それには、本学の「建学の精神」と「クレド」、そし現在皆さんとともに懸案中の「三つのポリシー」を中心軸として、大学の「質」と「独自性」を改革する方向を明らかにすること、学生にとって「価値ある大学」にすることが緊急の課題として求められています。
「少子化」と「大学の作り過ぎ」、この二つが今日の大学経営の元凶といわれています。1999年頃から、大学への進学希望者と入定員のバランスが崩れ始め定員割れという事態が増え始め、現在は40%を超えるまでに至っています。本学にもその前兆がないとは言えません。この「定員割れ」こそ、大学の赤字経営のキーワードであり、それは絶望的な「募集停止」、いわば大学の「心肺停止」に直結していきます。この1月はセンター入試の時期でありますが、共同してきたプール学院大学はすでに大学機構自体の大改革を始めています。この危機をどう乗り切るか、大学によって課題は様々異なります。
しかし、この危機こそチャンスだという考えもあります。
「最も大切なことは、大学に入学してくる者、学生が大学教育の中でいかに成長できるか、どういった人間になって社会にでていけるか」と言うことだといわれます。本学が独自のミッション(使命)、すなわち、どうしても医療人として成長するためには本学を選びたいと高校生に思ってもらえる独自のミッションを掲げる必要があります。大学と学生の「適切な出会い」を図るためには、大学のミッションと学生の希望を「マッチング」することが大切です。
その意味で、「自分たちが提供できる教育」とは何か、を真摯に問いかけて、それを具現化できる「三つのポリシー」に仕上げることが緊急の課題と思われます。それには、大学の教育力の再生とわれわれ教職員の自己改革が是非とも必要です。
本学は、本年度臨床検査学科が完成年度を迎え、更には平成30年度には作業療法学科を新設して2学部6学科の医療総合大学へと更に発展する計画をもっています。そして、学園全体としては、創立60周年を迎えます。本年はそのための「飛躍の年」として、「大鵬の理念」をもって教職協働、一丸となって天を目指すことを願って止みません。
しかし、皆さんの一歩一歩が積み重なり、この理念の実現に繋がることが最も大切だと思います。「一の字、積の字恐るべし」と幕末の志士達の精神的主柱であった佐藤一斎はのべています。
この「飛躍の年」をどうかともに、一歩一歩大学の改革へ向けて、教職協働して歩もうではありませんか。
平成29年1月6日
関西医療大学
学長 吉田宗平