関西医療大学

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2018年05月15日

平成29年度 卒業式式辞

 このよき日、平成二十九年度関西医療大学並びに大学院修了式を挙行するに当たりまして、ご来賓の皆様方には公私共ども何かとご多用の中、本式にご臨席賜り誠に有難うございます。熱く御礼申し上げます。

 保健医療学部―はり・灸スポーツトレーナー学科、理学療法学科、ヘルスプロモーション整復学科、臨床検査学科の四学科154名と、保健看護学部―保健看護学科の74名と合わせて両学部228名の卒業生、および、大学院は、保健医療学研究科修士課程8名の修了生、合わせて236名の皆さん、また、ご列席のご父兄の皆様には、この度のご卒業ならびに修了、誠におめでとうございます。

 さて、昨年、本学園は六十周年記念を迎えました。
それを記念する意味で、また、本学園の創設者武田武雄先生の建学の精神、「社会に役立つ道に生き抜く奉仕の精神」を引き継ぎ、益々学園を継承・発展させため、この度、学長賞に加え、新たに「武田賞」を設けさせて頂きました。これは、創始者の建学の精神を皆さんと共に、引き継ぎ発展させていこうとする私どもの学園の新たな意志表明でもあります。

 これから社会へと旅立つ卒業生ならびに修了生とそれを支えて来られた父兄の皆様方、また、すでに社会でご活躍されている校友会の皆様方のお力をお借りして、今後、激動する少子高齢社会の中で、七十年、百周年へと学園を発展させ、大学としても、大きな理念に向かい、「奉仕の精神」を第一に、「社会に役立つ道」を教職員協働して、探求し、新しい時代を切り開いて「生き抜く」ことが求められています。

 一方、日本だけではなく、世界においても、IT社会の到来とグローバリズムの中で、今日ほど、「大学とは何か」、「大学における教育とは何か」と問われている時代はありません。

 この度の学部卒業生の皆さんは、私が初めて本学の学長となり、お迎えした最初の入学生でした。もうお忘れかも知れませんが、私はこんな話をさせて頂きました。
2011年三月十一日、東北大地震の最中の東京ディズニーランドでの出来事です。当夜、東京ディズニーランド内に二万から三万人のお客様がとどまることを余儀なくされました。従業員はお客様への対応や、施設・建物の安全を点検する作業に奔走しましたが、夜七時頃、結局、屋外にいた一〇〇〇人以上のお客様を東京ディズニーシーの施設内ですごして頂くことになったそうです。ディズニーシーへの移動の際、お客様、ゲストの安全を第一に考え、これまで極秘で非公開となっていたバックステージをはじめて開いて、そこにはライトを持ったキャストがズラリと両脇に並び、長い光の誘導路を作って整然とお客様を導いたといわれています。このような混乱の状況の中でさえ、「究極のおもてなし」、ホスピタリティを実践できたことがテレビや様々なメディアによって、脅威をもって報道されました。ここに、皆さんがディズニーランドへ、一度行ったら、また行きたいと熱心なリピーターとなる秘密が隠されています。
この「究極のおもてなし」、ホスピタリティという言葉は、間直に迫った二〇二〇年の東京オリンピック招致のキーワードとなりました。その原義の一つには、もともとホスピタル、「病院」という言葉が含まれています。また、二つ目には、キリスト教の慈善施設などを指すとされています。
私たちのAI化する現代社会や高度化する先進医療の中で、このホスピタリティは生きているでしょうか?
この四年間あるいは二年間で、本学において何を身に着け、まなばれたでしょうか?
その成果が、これから旅立たれる社会の中で、まさに問われます。
「ホスピタリティと知識・技術」―本来はそのどちらも必要ですが、敢えていうならば、第一とすべきはホスピタリティ、すなわち、「人」であり「心」ではないでしょうか?
すなわち、「ホスピタリティ・マインド」です。確かに高度な知識・技術は必要ですが、十分条件とは言えません。現代の少子高齢社会にあって、高度先進医療から地域包括医療へと変動しつつある中、これから医療を支えて行く皆さんにとって最も大切なことと思います。
私が学長となって、一番嬉しかったことは、本学を訪れて下さる来賓の皆さんが、「今日、初めてこの大学にきて、学生の皆さんが口々に、明るく挨拶してくれる事だ」とおっしゃって帰られることです。これは、本学に根付いた大切で、貴重な一つの校風、文化、すなわち、先に述べました「ホスピタリティ・マインド」、いわゆる「奉仕の精神」の原点ではないかと思います。このことが、これから社会へと旅立つ皆さんにとって、最も大切な事だと思います。

 しかし一方、現代は、高度なICT技術の発展、グローバル化による知識産業社会と変貌しつつあります。そして、AIが人間の脳の機能を超える「シンギュラリティ」(技術的特異点)が、2045年にはやって来ると言われています。その中で、多くの職業がAIやIOT技術の発展によって代替されると言われます。
「AIが神になる」、「AIが人類を滅ぼす」「「シンギュラリティが到来する」など多くのAI(人工知能)論議が行われています。しかし、本当にコンピュータは、人間の能力、脳機能を超えていくのでしょうか?
東大合格を狙うAI「東ロボくん」を研究し、推進して有名になった国立情報研究所の数学者新井紀子教授は、「AIが神になる?」―なりません。
「AIが人類をほろぼす?」―滅しません。
「シンギュラリティが到来する?」―到来しません、とはっきり断言されています。
「AIがコンピュータで実行されるソフトウェアである限り、人間の知的活動のすべてが数式で表現できなければ、AIが人間に取って代わることはありません」、「コンピュータの速さや、アルゴリズムの改善の問題ではなく、大本の数学の限界です」、「基本的にはコンピュータがしているのは四則計算です。人工知能の目的は、人間の知的活動を四則計算で表現するか、表現できていると私たちが感じる程度に近づけることなのです」と明瞭に述べられています。
そして、もう一つの重要な問題は、「AI」という言葉と「AI技術」が混同されて使われている」と言うことです。すなわち、「AI技術をAIと呼ぶことで、実際には存在しないAI、人工頭脳がすでに存在している、もしくは、近い将来に登場するという思いが生じている」と指摘されています。
しかし一方では、「シンギュラリティは来ないし、AIが人間の仕事をすべて奪ってしまうような未来は来ませんが、人間の仕事の多くがAIに代替される社会はすぐそこに迫っています」とも述べられています。
「東ロボくん」は、東大には合格できないが、関東のMARCHや関西の関関同立と呼ばれる有名私立大学レベルには合格できるようになっていると言われます。
確かに、チェスや将棋のルールようにある限定された条件のもとでは、推論と探索はその並外れた計算力を発揮できますが、条件が簡単には限定できない現実の問題を前にすると無力であること」が、多様な入試問題を解く試行錯誤の中で、明らかになってきたそうです。これは「フーレム問題」と呼ばれ、目的・目標が明確で、限定条件が決まった問題に対しては、優れた能力を発揮できるが、その枠外では、今なおAI開発の壁となっている課題の一つです。
更に重要な点は、人の幸福は数値化できない、四則計算できないと言うことです。AIやロボットには、数式の意味は理解出来ません。また、「何が人間社会において役立つか」は理解出来ません。「社会に役立つ道とは何か」を知ることが出来るのは人間だけです。
患者さんの幸福を第一とするおもてなしの精神、「ホスピタリティ・マインド」、建学の精神に述べられた「奉仕の精神」は、数量化できないものです。急速にIT化の進む医療社会へと旅立つ皆さん自身が、探求し続けなければならない究極の課題と言えます。
その意味で、本学の建学の精神「社会に役立つ道に生き抜く奉仕の精神」もう一度思い出して今後の指針として頂きたいと思います。本学名誉学長八瀬善郎先生は、建学の精神を「逆説的運命(paradoxical destiny)」と言われ、時が経つほど、古くなるほど時宜を得た大切なものとなるとおっしゃっています。

 最後にもう一つ、私たちの学園の淵源は、東洋医学、特に鍼灸学にあります。
私の愛読書一つに、幕末の儒学者・佐藤一斎の著した『言志四録』という書があります。今、放映中の西郷(てご)どん、西郷隆盛も座右の書として、その百〇一条を書き写して『手抄言志録』として懐に入れて、日々読んでいたそうです。佐藤一斎の弟子であった佐久間象山をはじめ、吉田松陰、勝海舟、坂本龍馬、伊藤博文といった幕末の志士達のバイブルでもあったと言われます。その中に、「箴は鍼なり、心の鍼なり」という言葉があります。最初の「箴(しん)」は、竹冠のついた諌めの言葉という意味の「箴言」の箴(しん)という字です。この言葉の意味するところは、「賢聖の言葉というものは、心にひびく鍼である」と言うことです。この鍼灸の鍼(はり)の身体への響きと諌めの言葉(箴)としての心への響き、この両者を「心の鍼」と心身一如に捉えることのできる感性は、すごいと思います。これは、身体感覚と心を分離してしまったIT社会の私たち現代人への警鐘ではないでしょうか。

 「箴は鍼なり、心の鍼なり」

この言葉を理念とする医療技術を私たちは、本学のクレド(信条)において、た「ヘルス・アート」と呼んできました。東西医学を融合した医療を目指し、初心に立ち返ってこれからの第一歩を社会へと踏み出して頂きたいと思います。

最後に、改めて皆さんのご卒業ならびに修了、誠におめでとう御座います。

平成二十九年三月九日
関西医療大学学長 吉田宗平

関西医療大学 学長
吉田 宗平(よしだ そうへい)
  • 担当科目(学部)
    生命倫理
  • 大学院担当科目
    神経内科学概論、内科・神経内科学特論講義・演習
  • 学位
    医学博士
  • 取得資格
    認定内科医、日本神経学会専門医・指導医、東洋医学会専門医、NPO日本ハーブ振興会Profeesional Adviser of Herb (PHA)資格
  • 大学院(研究指導内容)
    鍼灸への神経学的アプローチとその治効機序の科学的解明、脈診の科学化とノジェらによる耳介療法の治療・診断システムの構築、ハーブ・アロマテラピーの研究