2019年01月28日
平成31年度 年頭のあいさつ
皆さん、明けましておめでとう御座います。
今年の干支は、「亥」です。猪突猛進と生きたいところですが、急速に進む少子高齢化の日本には様々な課題が山積しています。また、平成が終わり、新しい年号が4月1日発布される年です。これから私たちの生活はどう変わっていくのか・・・先行きの読めない「不確実性」の社会と言われます。
亥年生まれの新年の「年男・年女」の人口は、1,055万人、日本総人口1億2632万人の8.4%を占めています。年代別では、第一次ベビーブーム世代、団塊の世代の初年次に当たる72歳が約206万人で最も多く、干支の2周り下の第二次ベビーブーム世代の48歳は、196万人と第一次ベビーブーム世代の約3分の2に、更に2周り下の12歳では108万人とその3分の1にまで激減しています。ちなみに、今年の新成人20歳の人は、第二次ベビーブーム世代の子供たちと言われており、横ばいか微増傾向と言われています。しかし、総人口の約1%で、9年間連続1%を切っており、生産人口である若い世代は確実に減少しています。少子高齢化と人口減少、この将来人口の推計は、統計学的には極めて確度が高いといわれています。実際には、第一次ベビーブームのピークは、昭和22~24年の3年間のみで、私の属した団塊の世代が終わった直後の25年には既に36万人減少し、急速に進行していました。しかし、水面下の事として、平成の始めの30年前はバブルの絶頂期にあり、何ら注意を向けられてこなかったのが現状と言えます。
さて、その平成も終わろうとしています。
「2050年、日本は持続可能か」。京都大学の広井良典教授らが日立製作所の人口知能(AI)を用いて、35年先の日本のシナリオを予測されています。それによると、「未来のシナリオ」は約2万通りありますが、まず、ここ7-9年を第一分岐点のタイムリミットとして、大きく「都市集中型シナリオ」と「地方分散型シナリオ」の2つに分かれるとされます。その分岐点では、国の政策も重ですが、若者の「個人の生き方が、その分岐を大きく左右する」と言われてて¥います。「右肩あがり」の成長期にあった私たち団塊の世代は、皆が東京を目指し、受験戦争で一つの坂道をひっしに登って行きました。しかし、現代の人口減少社会では、まったく逆に、地方へ出ていく若者が増えることが、「日本の未来」を変える第一歩だと指摘されています。このまま、「都市集中型シナリオ」の方向に進めば、財政と雇用は保たれますが、人口減少により地方は廃れ、地域格差が拡大して、日本は疲弊していくことになると言われます。
第二分岐点のタイムリミットは、16-19年後ですが、例え「地方分散型シナリオ」の道を進んだとしても、「人」が分散しただけでは財政は破綻し、むしろ「地方分散型持続不良」のシナリオとなってしまうとされます。究極の目標である「地方分散型持続可能シナリオ」に向かうためには、多くの若者が地方へ向かい、「自ら変わろう」としなければならないと指摘されています。すなわち、「東京一極集中」や終身雇用に象徴される「単線の仕事人生システム」、いわゆる「昭和システム」は、男性を仕事に封じ込め、一方では、女性を家庭に閉じ込めるものでした。その負の遺産を引き継いだ「平成」が、いま終わろうとしています。近年の動きに見られるように、「女性の社会進出」や「働き方改革」にみられるように社会の雇用システムも新たなパラダイムへとシフトすることが求められています。
このような社会変動の中、大学の役割としての、これまでの「研究」と「教育」に、新たに「社会貢献」が加わり、この三つの使命として大きくクローズアップされつつあります。
研究面では、昨年は、京都大学の本庶佑(ほんじょ たすく)先生がノーベル生理・医学賞を受賞されて話題となりましたが、日本の大学における研究の現状をみると、日本で生み出される論文数は主要国で唯一、減少傾向にあります。インパクトファクター、別の論文への引用数でみますと、2003~2005年間における日本の平均は4位でしたが、その後の10年間で9位に落ち、「頭脳流出」を招いているとも言われています。しかし反って、「国際的な人の移動によって、人口減の負の影響は緩和される」との見方もあります。2017年、日本人口は約37万人減りました。それに対して、新たに日本に滞在しはじめた外国人は17万人。失った人口の約4割が補われたことになります。いまのペースでも、2020~2030年頃には20~40歳の約10人に1人は「移民的背景を持つ人」になると予想されています。本学の大学院においても、最近中国やモンゴルなどのアジアから、また、JICAに見られるように南米の日系二、三世の方々が「学びの場」を求めてやって来ています。
一方、働く高齢者も増えており、2017年の就労者数は807万人と過去最多を更新し、その約4割を私のような70歳以上の人が占めていると言われますます。これからの「人生100年時代」という社会の到来を考えても、高齢者と若者など多世代が協働して働ける職場環境の整備と体制づくりが不可欠とされます。また教育面でも、若い世代にとっても65歳以後のライフシフトを考えた時、長い人生を如何に生き抜くのか、終生に亘る自己変革を如何に持続するのかなど、マルチレベルなリカレント教育の在り方も大学として模索して行かなければならない時代になっています。
この様な社会変動の中で、私たちの「地域にある医療系大学」としての社会における役割を考えてみる必要があります。それには、本学の「建学の精神」と「クレド」の独自性、そして「三つのポリシー」を中心軸としたIRによる実証的な大学教育の「質保証」を実現し、多様化する医療社会の要請に応えて、若い学生が将来活躍でき、また、社会人が新たな医療技能と知識を学べる実践的で「価値ある大学」として、自信を持って公開できる大学にすることが緊急の課題と考えています。
さて昨今、教育界においては、リベラルアーツに代わって、STEAM教育の重要性が強調されています。STEAMのSとは、Science(科学)、TとはTechnology(技術)、EとはEngineering(工学)、MとはMathematics(数学)、そしてAとは、Art(芸術)を指します。その頭文字を重ね合わせた造語です。この言葉は、2013年オバマ大統領がアメリカの重要な国家戦略として、STEM教育を支援するという演説をしたことで話題になりました。しかし、これに今のAI時代あってこそ想像力と感性が必要とされるという考えから、STEM教育にArt(デザインを含むアート)を加えたSTEAM教育が重視されるようになって来ました。しかし、日本はこの流れに、大きく立ち遅れています。感性を伴ったアートとサイエンスによって着眼点が生まれ、エンジニアリングによって設計図がかかれ、テクノロジーという工法を使い生成される、それがAI時代のものづくりの新たな創造性を持った仕組みと考えられています。システムと実際の課題、もっと広く言いかえれば、「科学的技術システムと文化的伝統の間を取り持つ人材の養成」が大学に要求され、将来そう言った人材の価値は高まっていくと思われます。本学の英語名は、Kansi University of Health Sciencesですが、私はむしろこれにArtを加えて、Kansai University of Health Sciences and Artsとすべきと以前から考え、そうしたいと思っています。
しかし、現状の日本教育は、大学受験によって、これまで高校の段階で文系と理系に「分断」されてきました。今日では、学ぶ上でも就職においても文系と理系に振り分けること自体が、もう時代にそぐわないものになっていると言えます。理想的には、このような広い意味での文化と伝統、すなわち、Artを介して、分断を乗り越えて学びつづける「能動的な学修」が、現在私どもの大学教育にも求められているのではないでしょうか。
しかし一方、教育理念上の問題とは異なり、大学の置かれている現状は厳しいものです。1999年頃から大学への進学希望者と入定員のバランスが崩れはじめ、2018年問題といわれるように、入学希望者の減少と都市集中のため、現状では定員割れを起こした大学が40%を超えるまでに至っています。本学も、その例外ではありえません。平成の時代は、見え隠れしていた危機が、現実の課題として、東洋系学科において、その前景に現れて来ています。それを新しい年号の時代に、どう乗り切るか、大学経営にとって大きな課題と言えます。
国は、2020年度から低所得層の子供を対象に年間で最大約91万円の給付型奨学金を支給するとしていますが、一方では、深厚な経営難にある大学受け入れは認めないとしています。大学に求められる条件として、4つ上げています。一つには、実務経験のある教員が卒業に必要な単位数の1割以上の授業を担当していること。二つ目には、理事に外部人材を複数任命していること。三つめには、適正な成績管理。四つ目には、財政・経営情報の開示です。
また、対象外となる条件中には、直近の3年連続で学生数が定員の8割を割っていること、を挙げられています。文部科学省によると、今年度は662の学校法人が603大学、314短大を運営していますが、現状では短大を中心に、10校程度が対象外となるとされています。
勿論、本学も、これらの条件を一つ一つ順にクリア―していかなければなりません。比較的安定と言われる医療系大学や学科の新設が相次いでおり、生存競争の上でも厳しい現状にあります。また、学園全体としては、これまで大学を支えて来た専門学校が少子化という引き潮の中で厳しい現状にあり、学園全体としての大きな改革が求められています。
この様に多くの課題が山積しておりますが、まずは、この1月本学は、第2回目のセンター入試という難関を乗り越えなければなりません。これからも、長期展望を保ちながら目前の課題を慎重に一歩一歩、丁寧にクリア―しなければなりません。皆さんの協力・協調のもと進んで行かなければなりません。
まずは、第一の関門を乗り越える今年の第一歩を踏み出そうではありませんか。大きくは、5年後の第三次認証評価に耐えて、その後日本社会の第一分岐点のタイムリミットを向かえます。「建学の精神」のもと、これらの障壁を乗り越えて、新たな方向へとパラダイムシフトしなければなりません。
昨年ものべましたが、幕末の志士達の精神的主柱であった佐藤一斎は、「一の字、積の字恐るべし」と述べています。一歩一歩を大学の「未来の改革」へ向け積み重ねることが大切です。教職協働して、この一歩一歩を弛まず、歩もうではありませんか。色々と困難な課題のべましたが、本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。
平成31年1月7日
関西医療大学
学長 吉田宗平