2021年03月11日
令和2年度 卒業式式辞
「一歩一歩を大切に」
皆さん、この度のご卒業、誠におめでとう御座います。
また、卒業生の皆さんを日頃から支えて頂いた保護者の皆様方にも、心から感謝とお祝いを申し上げます。
さて、先日ある新聞紙上に、こんな話が載っていました。
戦国時代から江戸時代初期にかけて、大名のそばにいて、相談相手となった「御伽衆」と言われた人々がいました。なんと、豊臣秀吉には、800人もの御伽衆を抱えていました。
その中で、ひときわ頓智(とんち)にすぐれた曽呂利新左衛門(そろりしんざえもん)という人物がいました。
利新左衛門は、ある日、何かで「褒美に何が欲しいか?」と秀吉に問われました。彼は、「大津の三井寺(みいでら)の階段は五十一段ありますが、一番下の段に米を一粒、次の段に二粒、その次に四粒と、倍々にしながら最上段まで米粒を置いて下さい、その米を全部頂ければ・・・」と語ったそうです。
最初、秀吉は安請け合いしたものの、よく考えてみると、これはとんでもない失敗であることに気づきました。最後には、それは「ネズミ算」式に膨大な量になります。最初は小さな数字ですが、数学的には、ある時点から、突然指数関数的に増加します。ちなみに、米1粒を0.02gとしても、2の51乗すると、総量は、なんと「想定外」の約4,500万トンに達します。急いで、別の褒美にかえるように懇願したとのことです。
さて、この新型コロナウイルスの感染拡大も、この曽呂利新左エ門の頓智(とんち)話と深い関係にあります。つまり、この「パンデミック」による感染症拡大は、「指数関数」的に爆発的に急増することです。新型コロナウイルスは、最初の中国武漢から、わずかな時間であっと言う間に、世界へ感染拡大しました。その後の状況は、皆さんがご存知の通りです。
今や、「広い」と思っていた世界は、通信ネットワークの広がりと高速化により、「6人のヒトを介したら世界中のどの知らないヒトとも繋がる」といわれています。まさに、地球全体が、巨大で、高速な交通手段のネットワークにより、世界のすみずみまで高速に、短時間で移動できる「スモール・ワールド」となっています。新型コロナウイルスも、このネットワークに乗って、人から人へと、急速に、爆発的に世界へ伝播しました。
この1年、新型コロナウイルスの感染拡大防止には、我々人類にとって「緊急事態宣言」下で「三密」を避け、人と人の繋がりを自ら断つしか、方法はなかったということです。しかし、世の中の人の動きを止めたことで、社会経済的にも、皆さんの学業にも大きな影響を被りました。
このようなコロナ禍の中みなさんは、今日、ここに卒業され、新たな一歩を、社会へと踏み出すこととなりました。
これまでに、壊された「人と人のつながり」を回復しつつ、新たなWithCorona時代の社会を創造していくことが求められています。どうか、若い皆さんは、これまで学んだ知識と技術を持って、コロナに負けない、新たな「人と人のつながり」のあるネットワークを、医療現場において構築して頂きたいと願っています。
現代は、「人生100年時代」と言われます。フランスの哲学者ジャネは、生まれてからの人生の時間の始まりを4歳、終わりを100歳と仮定して、一生の半分の折り返し点を計算しました。それは、一体、何歳になったでしょうか?
なんと、20歳でした。皆さんの人生は、もう既に、半ば過ぎていることになります。ここでは、主観的に体験する時間を意味しますが、「年齢に反比例して、急速に減少」します。すなわち、今の皆さんが実感している1日は、4才児のほぼ1/5、40歳になると1/10になってしまいます。ちなみに、私の年齢では、1/18になってしまいます。まさに、「光陰矢の如し」です。教育・学修に要する時間に関しては、まさに、若い時の努力が肝要と言うわけです。「鉄は若いうちに打て」といわれる所以です。
皆さんが、それぞれの道で一流となるためには、「一万時間」の修養が必要だとよくいわれます。しかし、皆さんが、本学で学ばれた時間は、実際五〜六千時間ではないでしょうか。
まさに、これからの努力、ほぼ残り半分の時間の目標を、卒後如何に積み上げるか、そこに飛躍的な成長に至るキーポイントがあります。
元大リーガー選手のイチロー氏は、
「努力せずに何かできるようになる人のことを「天才」というのなら、僕はそうじゃない。
努力した結果、何かができるようになる人のことを「天才」というのなら、僕はそうだと思う。人が僕のことを、努力もせずに打てるんだと思うなら、それは間違いです。」と、
また、
「進化するときというのは、カタチはあんまり変わらない。だけど、見えないところが変わっている。それがほんとの進化じゃないですかね。」
とも言っています。
最初は小さな歩みであっても、いつかは、突然飛躍的に、指数関数的に進歩する時がやって来ます。それまでは、どうか焦らずに、これからの一歩一歩を大切にして下さい。
改めて、この度のご卒業おめでとう御座います。
令和3年3月11日
関西医療大学 学長 吉田宗平