関西医療大学 大学院2年生 平林 大輔
失体感症傾向や心身の対話を促し治療の動機付けを行ったり、神経症傾向の強い患者の訴えに振り回されずに病態評価を行ったりするためには、病態を的確にとらえる客観的指標が有用である。東洋医学は未病を対象にする医学である。未病の段階を周期性成分より鋭敏にとらえると言われる指尖脈波の非周期性成分を、証の客観的指標として用いることができるかを検討した。
五臓の病証と寺澤の気血水スコアとの相関を、従来から用いられている周期性成分と共に検討した。循環器(心)の指標に偏るのを避けるため、消化器(脾)の指標である唾液アミラーゼの有用性についても検討した。
気逆や腎の病証に関しては、生体の非周期性成分による評価が有用だった。心、肝の病証や血虚に関しては周期性成分による評価が有用だった。肺、水滞などの評価には心拍変動の超低周波成分による評価が有用だった。
気と関係が深く浅い病と考えられる証に関しては、生体の非周期性成分による評価が有用だったのに対して、血と関係が深く、深い病と考えられる典型的な所生病に関しては周期性成分による評価が有用だったと考えられる。さらに深いと考えられる脾の病証に関してはどちらも無効で、生体の不可逆的変化を検出する指標が必要だった。水と関係すると考えられる証の評価にはレニン-アンジオテンシン系と関係のある指標が有用だった。
証を客観的に評価するためには、病の深さにより異なる自律神経機能を用いる必要がある。
関西医療大学准教授近藤哲哉准教授 近藤哲哉
テニスをしたことがある人なら御存知だと思いますが、相手のサーブを待つ間じっとしているよりも、細かく左右に体を動かしている方が、どちらにボールが来ても体を瞬間的に動かしやすくなります。これと同じで、心臓の速さも時々刻々速くしたり遅くしたりしている方が環境の変化に対応しやすく、健康な状態です。心臓を車のエンジンに例えると、心臓を速くする機能がアクセル、遅くする機能がブレーキに相当します。
東洋医学は、はっきりした病気ではないが何となく調子が悪いという未病の人を対象にします。これは自動車に例えると何かうまく運転できない車、例えばタコメーターが故障した車になります。タコメーターというのはエンジンの回転数を運転者にフィードバックする装置なので、これがなければ勘に頼って変速せざるを得ず、運転がぎくしゃくしてしまいます。人体でも自分の血圧や末梢の臓器の状態などを脳にフィードバックできている状態は健康な状態なのですが、フィードバックが弱くなると、突然脳卒中で倒れやすくなります。最近脳卒中で倒れた某日本人野球監督や某外人サッカー監督をイメージしてもらえば分かりやすいのですが、体が丈夫でパワフルなのに突然脳卒中で倒れるタイプの人ではフィードバックが弱く自分が無理をしていることを感じにくいために倒れるまでパワフルに働くと考えられます。
アクセルやブレーキがおかしくなるのは病気がよほど進行してからですが、その前の段階である未病をとらえるために、より微妙なフィードバック機能の高低を特殊な装置を使って研究しています。