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PCO(多嚢胞性卵巣)モデルマウスの作製とその卵巣構造及び排卵と卵胞破裂に関わるFSHとLHリセプター、Collagen Type-1とTIMP-1の遺伝子発現

関西医療大学 大学院2年生 櫻井威織

公開発表抄録

【はじめに】

ヒトの多嚢胞性卵巣症(PCOS)は、Srein & Leventhal(1935)によってその詳しい病理所見が報告された。その後、多くの研究が行われてきたが、まだそのメカニズムについては不明な点が多い。そこで、本研究はマウスにモデルを作り、正常マウスとの比較によりその成因を探ることを試みた。今回、得られたPCOモデルマウスについて、その卵巣構造を詳しく観察し新しい事実を見出すことができた。
次いで、卵巣機能に関して、排卵の機能を調べるために、過剰排卵法を用いて、排卵数の比較を行った。その時、三陰交相当部位に刺鍼することを行った。更に、排卵に最も関与するホルモンであるFSHとLHリセプターの遺伝子発現と、卵胞を取り巻く細胞外マトリックス(ECM)の一つであるCollagen-1 とそれを加水分解するCollagenase のはたらきを阻害するTlMP-1の発現について調べ、幾つかの知見が得られたので報告する。

【材料と方法】

本研究は、本学の動物実験倫理委員会の承認を得て行った。4~5日齢の雌マウス(ICR系)の腹腔にTestosterone propionate(TP)を0.1mg注射し、多嚢胞性卵巣(PCO)マウスを得た。発情周期ごとの卵巣を摘出し、切片を作製し、HE染色やAzan染色を行った。また、一部の卵巣については免疫染色を施した。正常とTP処理マウスにおける卵巣機能を過剰排卵法を用い、しかもそのプロセス中に三陰交(SP6)相当部位に刺鍼(1寸1番鍼)することを試みた。刺鍼群、無刺鍼群(麻酔群を含む)の排卵数を比較し、刺鍼の効果を調べた。更に、卵巣内部の変化を分子レベルで捉えるため、摘出した卵巣からRT-PCR法でTotal RNAを抽出し、cDNAを作製した。次いで、目的とするDNAのプライマーを設定し、GAPDH 、FSHと LH リセプター、Collagen-1とTlMP-1の遺伝子発現を調べた。

【結果と考察】

TP処理マウスの卵巣は、大きな卵胞腔をもつ多数の卵胞が見られ、黄体が存在しないという、典型的なPCOの特徴を示した。又、二次卵胞の卵母細胞に減数分裂の再開や卵割と断片化が見られた。
過剰排卵法による排卵数の比較では、正常マウスの場合、刺鍼群が無刺鍼群よりも1.5倍の卵が得られた。このことは鍼の刺激が 排卵を促進させるに有効であることを示唆している。これに対して対照群として設けた麻酔のみの個体では、排卵数が低く、麻酔は排卵作用に悪影響を及ぼしていることを示した。一方、TP処理マウスの場合、刺鍼群、無刺鍼群、麻酔群とで、共にその排卵数は低く、ほぼ同じという結果となった。このことは、TP処理で病変マウスとなった為に、刺鍼の効果が見られなかったと言える。だだし、今後、他の経穴に変更したり、複数の経穴を刺激する、電気刺激を加える等の試みが必要と考えられる。
発情周期ごとのFSHとLHリセプターの遺伝子発現に関して、いずれの周期にも発現が見られ、特異的な現象は見られなかった。このことはTotal RNAを抽出する時、卵巣に含まれる大小さまざまな卵胞を含んでいるためかもしれない。今後は卵胞のステージごとに分けて調べる必要があると思われる。
排卵には卵胞の破裂が伴う。PCOマウスではその破裂が起こらないために、次々と卵胞の成熟が起こる。そこで、卵胞のECMの成分の一つであるCollagen-1と破裂に関連するTlMP-1の発現を見ると、排卵直前の5時間前からそれらの発現が高まった。このことは、破裂のあと卵胞が黄体に分化するときに、Collagen-1が必要であることを示している。また、TlMP-1の発現も排卵前に高まった。これは、卵胞の破裂に関与するCollagenaseによるECMの加水分解が、まわりの若い卵胞のECMの加水分解を阻止することによって、次への排卵を保護するはたらきをすると考えられる。
今後、各種ホルモンのリセプターの遺伝子発現や排卵時の卵胞破裂に関して、分子レベルの視点からより詳しく研究することが必要である。そのためには、本研究で得たPCOマウスはこれらの研究に適していることを示している。

指導教官による解説

関西医療大学教授 平尾幸久
(関西医療大学教授 中峯寛和)

ヒトの多嚢胞性卵巣症(PCOS)は、女性が思春期頃になるとその約5%に発症すると言われている一種の排卵障害となる病気である。その正因や治療について多くの研究がなされてきたが、まだ解決するに至っていない。 また、この種の研究はヒトを対象とするため倫理的な問題があり容易でない。そこで動物にそのモデルを作製し、原因究明を行うことが求められている。 共同研究者の一人である櫻井は大学院での研究で、PCOモデルマウスの作製に成功した。同時に、モデルマウスの卵巣には、若い卵母細胞が減数分裂を開始するなど、細胞学的に見てこれまでに報告されていない新しい事実を見出した。更に、このモデルマウスに刺鍼することで、卵巣機能を改善できないかを調べている。また、刺鍼が卵巣にどんな影響を与えるのかを分子レベルで明らかにすることを試みている。これらの研究結果をもとに、やがてヒトPCOSの治療に東洋医学の鍼灸の施術が役立てられないかを目指している。


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