関西医療大学 大学院2年生 尾家 有耶
鍼刺激(百会の置鍼)が眠気を誘発するかについて検討した。対象;健常被験者37名、平均年齢34.9±10.1歳(男性:20名、女性:17名)、置鍼群19名(男性9名、女性10名)、非置鍼群18名(男性11名、女性7名)。
主観的評価には、「ねむけ」のVAS、フェイススケール、エップワースの眠気尺度(JESS)を行い、「ねむけ」のポリグラフ検査(脳波、眼球運動、心電図)を行なった。
鍼治療(百会の置鍼)時の「ねむけ」は、健常人で、安静時に生じる通常の「ねむけ」と大差はないものであり、鍼治療(百会の置鍼)を行なったことの急性効果として、車の運転などに支障をきたす過剰な眠気を生じさせることはなかった。置鍼群では、客観評価による実際の覚醒レベルの低下より、自覚的な眠気を強く感じている傾向が見られた。また、補助検査として、置鍼時の52チャンネルNIRS装置を用いて酸素化ヘモグロビン濃度を測定し、置鍼後の握力の推移を検討した。
関西医療大学教授 郭 哲次
「鍼治療(百会)は眠気を誘うか? 」の研究では、健常者の鍼を行ったグループと鍼を行わないグループを比較して、鍼刺激(百会)が眠気を誘発するかについて検討しました。これを調べるために、質問紙による眠気の主観的評価と、脳波検査、眼球運動検査、脳血流量の変化を調べる多チャンネルNIRS装置、筋力(握力)の検査などを用いて眠気の客観的評価を行いました。脳機能検査などの客観的眠気評価では、鍼の有無では差が見られませんでした。一方、特に鍼を行ったグループでは、主観的眠気尺度(VAS)の値が、客観的眠気(脳波による評価)の値より大きい結果となり、鍼を行った場合にのみ、明瞭な筋力(握力)低下がみられました。以上の事から、置鍼による眠気は鍼を行わない場合の健常人に生じる通常の眠気と大差はないが、実際の覚醒水準低下より、自覚的な眠気を強く感じているものと考えられました。さらに、この要因は置鍼による筋緊張低下に関係があると推測することができました。以上のように、この研究により、自覚的に強い眠気を感じていても、この眠気が必ずしも真の覚醒レベルの低下を反映していないことも分かったということです。