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第1回 附属鍼灸治療所ブログ
鍼灸コラム「慢性疲労症候群のうつ病症状」と鍼治療
人が肉体や精神的な活動を行なった場合、エネルギー不足が生じます。そして、活動の維持が困難な場合には休みたいという欲求と伴に、筋力低下、労作時の息切れや眠気などの疲労の症状が現れます。通常であれば、心身の休息を取る事で疲労は回復しますが、心身のストレスが継続すると、風邪症状、集中力の低下、筋肉痛、寝ても疲れが取れない、不眠、抑うつなどの原因不明の強い疲労感が6ヶ月以上わたって持続する場合があります。この病態は慢性疲労症候群(CFS)と呼ばれ、未だ原因は解明されていません。
この症候群に関連すると考えられる、うつ病治療の研究が2016年のNeuroscience Letters誌に報告されています。「ラットにおけるうつ病の慢性ストレスモデルに対する鍼治療の抗炎症作用の可能性」と題する論文です。
この研究は以下の通り、ラットに継続的なストレスを与えて、うつ病様の症状(慢性疲労症候群におけるうつ病症状と同一と考えられる)のラットを作り出し、鍼治療の効果を研究した内容です。
【方法】①コントロール群(何もしない群)②慢性ストレス与えた(CUMS)群:ラットに対し、食事を与えない、一日中光に照らされた環境、冷たい水に泳がせるなどのストレスに暴露した群(最低28日間ストレスを与えると、うつ病様となることが分かっている。)③鍼治療群:CUMSに暴露されたラットの「百会」と「内関」のツボに2㎜刺入、1分間の回旋刺激、10分間の置鍼を毎日おこなった群、④フルオセキチン群:CUMSに暴露されたラットに対し、抗うつ病薬のフルオセキチン(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を投与した群の4つのグループに分けて比較実験を行なった。
【結果】②CUMS群のラットは、有意に体重の減少、砂糖水(スクロース水)の飲量の減少、活動量の減少、脳の解馬、前頭前野での炎症性サイトカインが増加、血液中の炎症性サイトカインが増加した。しかし、③鍼治療群と④フルオセキチン群はストレスに暴露されているにも関わらず、体重減少の抑制、砂糖水の飲量の変化は無し、脳と血中の炎症性サイトカインの増加は無かった。また、③鍼治療群では、活動量が一部改善された。
【考察】うつ病モデルラットに対する鍼治療は脳内の海馬や前頭前野に作用し、炎症性サイトカインの発現を抑制した。その結果、血中サイトカイン濃度も抑制され、体重や活動量の低下といった行動面のうつ病様変化を抑制した。
このように、動物を使った最近の研究からも、鍼灸治療が慢性疲労症候群におけるうつ症状にも効果があると言えそうです。疲れをためすぎると重症化する可能性もあります。是非、定期的に鍼灸治療を受け、日々の疲れをリセットして下さい。
【参考資料】
建部陽嗣,樋川正仁「論文から読み解く科学的知見 鍼灸ワールドコラム(第60回)脳の炎症によるうつ病を鍼治療が改善させる」,『医道の日本』2016年5月号,PP.169-171,医道の日本社.