福本 悠樹 講師らの論文「脳卒中後の『運動をイメージする力』には何が関係するのか?」が国際誌に掲載されました
運動イメージとは,実際には身体を動かさずに,頭の中で運動を思い描くことです.運動イメージを用いた練習は,脳卒中後のリハビリテーションにも活用されていますが,その能力には個人差があり,「どのような患者が運動を正確にイメージできるのか」は十分に明らかになっていません.
今回,本学大学院 保健医療学研究科の福本悠樹講師,本学副学長の鈴木俊明教授,本学の臨床実習施設である医療法人寿山会 喜馬病院の白井孝尚先生,長谷朋美先生,千代ひなた先生,さらに東京国際大学の川崎翼先生,東京大学大学院の濱田裕幸先生,東京都立大学の酒井克也先生,広島都市学園大学の田邊淳平先生,SBC東京医療大学の澤広太先生からなる研究グループは,亜急性期脳卒中患者を対象として,運動イメージ能力に関連する運動・感覚・認知機能について多施設共同研究を行いました.
本研究では,脳卒中後の「運動をイメージする力」に着目し,手指の運動回復,固有感覚,ワーキングメモリが運動イメージ能力とどのように関係するのかを検討しました.本研究成果は,国際誌「Journal of Rehabilitation Medicine」に掲載されました.

研究の概要
運動イメージは,実際の運動を行わずに,その運動を頭の中でシミュレーションする過程です.脳卒中後のリハビリテーションでも利用されていますが,同じ程度の運動麻痺を有する患者であっても,運動を正確にイメージできる人とそうでない人がいます.
そこで本研究では,亜急性期脳卒中患者40名を対象として,手指の運動回復段階,身体の位置や動きを感じる「固有感覚」,そして情報を一時的に保持・操作する「ワーキングメモリ」が,運動イメージ能力とどのように関連するのかを検討しました.
その結果,それぞれを個別にみると,手指の運動回復が良好な人,また固有感覚が良好な人ほど,運動イメージ能力も良好である傾向が認められました.一方,これらの要因を同時に考慮すると,いずれか1つの機能だけで運動イメージ能力を説明することはできませんでした.さらに探索的な機械学習解析では,「運動回復」,「固有感覚」,「ワーキングメモリ」の3つを組み合わせることで,運動イメージ能力が比較的高い人と低い人を,偶然を上回る精度で分類できることが示されました.
これらの結果から,脳卒中後の運動イメージ能力は,単に「麻痺が軽いか重いか」だけではなく,運動・感覚・認知という複数の機能が組み合わさって形成されている可能性が示されました.
研究内容
研究には,4施設から亜急性期脳卒中患者74名が参加し,運動機能や必要な評価データなどの基準を満たした40名を最終的な解析対象としました.運動イメージ能力の評価には,手指の器用さを評価する「パデュー・ペグボード課題」を用いました.対象者には,実際に麻痺側の手でペグを挿す課題と,同じ動きを頭の中でイメージする課題を行ってもらい,「実際に行った場合」と「イメージした場合」の成績のずれから,運動イメージ能力を評価しました.両者のずれが小さいほど,実際の運動をより正確に頭の中でシミュレーションできていると考えます.これに加えて,手指の運動回復段階としてBrunnstrom Recovery Stage,固有感覚としてStroke Impairment Assessment Setの位置覚項目,ワーキングメモリとしてBackward Digit Spanを評価しました.
解析の結果,運動イメージ能力は,手指の運動回復段階および固有感覚とそれぞれ有意な関連を示しました.しかし,運動回復,固有感覚,ワーキングメモリを同時に解析すると,どの項目も単独では運動イメージ能力と有意な関連を示しませんでした. この結果は,「運動機能が良ければ運動イメージ能力も必ず高い」,あるいは「感覚機能だけで運動イメージ能力が決まる」といった単純な関係ではなく,複数の機能が相互に関係しながら運動イメージを支えている可能性を示しています.
さらに,3つの機能を組み合わせて運動イメージ能力を捉えるため,機械学習を用いた探索的な解析を行いました.その結果,「運動回復」「固有感覚」「ワーキングメモリ」を組み合わせることで,運動イメージ能力が比較的高い人と低い人を,偶然を上回る水準で分類できることが示されました.

上段は,運動イメージ能力と手指の運動回復,固有感覚,ワーキングメモリとの関連を示しています.個別には運動回復と固有感覚が関連しましたが,3つを同時に考慮すると,いずれも単独では有意な関連を示しませんでした.下段は,3つの機能を組み合わせた機械学習解析の結果です.複数の機能を組み合わせることで,運動イメージ能力の高低を偶然以上に分類できることが示されました.
臨床への示唆
本研究の結果から,脳卒中患者の運動イメージ能力を理解するためには,運動機能だけを見るのではなく,固有感覚などの感覚機能や,ワーキングメモリなどの認知機能もあわせて評価することが重要である可能性が示されました.例えば,同程度の運動麻痺であっても,感覚機能や認知機能の違いによって,頭の中で運動をシミュレーションする能力が異なる可能性があります.そのため,患者ごとの運動・感覚・認知機能を総合的に把握することが,運動イメージを用いたリハビリテーションを個別化していくための一つの手がかりになると考えられます.
論文情報
Fukumoto Y, Kawasaki T, Shirai T, Hase T, Chiyo H, Hamada H, Sakai K, Tanabe J, Sawa K, Suzuki T.
Clinical Factors Associated With Motor Imagery Ability in Individuals With Subacute Stroke.
Journal of Rehabilitation Medicine. 2026;58:jrm46042.
DOI: 10.2340/jrm.v58.46042