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Blog 関西医療大学NOW!

 臨床検査学ユニットの西理宏です。二○二三年四月より関西医療大学でお世話になっている新参者です。今回はそれまで所属していた和歌山県立医科大学での仕事についてお話させていただきます。
 皆さんはいわゆる五感をご存じでしょうか。五感は嗅覚(きゅうかく:においをかぐ)、視覚(しかく:ものを見る)、聴覚(ちょうかく:音をきく)、触覚(しょっかく:触って感じる)、味覚(みかく:味を感じる)の五つになります。新型コロナウイルスでは嗅覚や味覚の障害が話題となりました。もちろん普通の風邪でも嗅覚や味覚の障害は新型コロナほどではないですが、起こりえます。
 今回は味覚についてのお話です。味覚には五つの基本の味があります。甘味、うま味、塩味、酸味、苦味です。甘味は糖分を、うま味はグルタミン酸やイノシン酸といったアミノ酸(たんぱく質)を、そして塩味は塩分(ナトリウム)を感知します。つまり、私たちが必要とする栄養素を摂取するためのものなのです。一方、酸味は腐った食べ物を、苦味は毒物を感知するためのもので、食べてはいけないものを避けるために備わっています。ですから動物や子供は酸味や苦味のあるものは嫌いです。大人になると食べても大丈夫なことが分かっていれば、むしろ味のアクセントとして多少の酸味や苦味は楽しめるようになります。大人になっても酸味や苦味が苦手な人もいますが、むしろ生存には優れているのかもしれません。では、辛味は味でしょうか? 辛味は厳密には味ではなく痛みや温度感覚の仲間になります(唐辛子の辛さは英語ではホット(熱い))。
 五つの基本の味といいましたが、最近第六の味として脂肪味が注目されています。これまで、脂肪はにおいや食感のため、なかなか味としての認識が難しかったのですが、徐々に研究が進んできています。脂肪味の敏感な人は太りにくいとか、食べすぎを続けていると脂肪味が鈍感になってくるとか、肥満や生活習慣病との関連が考えられています。ただ、日本人ではこれまでほとんど報告がありませんでした。私たちが肥満の人とそうでない人で味覚を調べたところ、甘味やうま味では差がありませんでしたが、脂肪味は肥満の人のほうがそうでない人に比べて味覚が鈍いことがわかりました。もう少し詳しく調べると、食べる量に関係しているようで、摂取カロリーと脂肪味の鈍感さが関連していました。また、太っているが、運動不足のせいで摂取カロリーはそれほど多くない場合については、脂肪味の感覚はあまり鈍くなっていませんでした。最後に、肥満の人を入院して減量してもらうと甘味やうま味の敏感さは変化しませんでしたが、脂肪味は減量前にくらべてより敏感になりました。
 この研究の結果よりは過食をやめて減量すれば、脂肪味の感覚も敏感となり、より痩せやすくなると考えられます。しかし、過食を続けていると脂肪味の感覚も鈍化し、さらに太りやすくなることが危惧されます。現代の飽食の時代の日本で生きる私たちにとって脂肪味と肥満の関係をさらに明らかにしていき、効果的な減量方法を探っていくことは重要なテーマと考えています。私たちの研究は下記の論文となっていますので興味のある方はご一読ください。
J Nutr Sci Vitaminol 2022;68(6):504-512