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Blog 関西医療大学NOW!

 臨床検査学ユニットの鍵弥です。胃や⼤腸は⾷物を消化分解して栄養素を体内に取り⼊ れます。⾷物には栄養素だけでなく細菌やカビ(真菌)、ウイルスといった微⽣物も含まれます。⼝腔には多数の微⽣物が住んでおり、⾷事の際にそれらの微⽣物も胃や腸に⼊ってきます。毎⽇多数の微⽣物が胃や腸に流⼊しますが、私たちは微⽣物に侵されることなく健康に過ごしています。なぜでしょう。それは、腸管粘膜免疫という全⾝免疫とは違う免疫機構が備わっているからです。

 腸管免疫機構のひとつが腸管関連リンパ組織です。⼩腸パイエル板、上⽪間リンパ球、⼤腸孤⽴リンパ⼩節、⾍垂などが含まれます。腸内細菌や腸管内物質との免疫応答、IgA の分泌といった働きをしています。 
 胃を摘出したら、⼤腸の腸管免疫はどうなるのでしょうか。ラットを使って実験してみました。胃を全摘したラット群と、開腹だけの偽⼿術ラット群を 2 週間飼育し、⼤腸を調べてみると、胃全摘群の多くで⼤腸粘膜下にリンパ球の集まりである巨⼤なリンパ過形成ができてい ました(図 1)。リンパ過形成の断⾯積は偽⼿術群の 5 倍以上に増⼤していました。普段は⼩さい⼤腸孤⽴リンパ⼩節が、免疫応答により巨⼤な結節になったと推測しました。巨⼤リンパ過形成ができた理由は、胃摘出群は胃での胃酸 (強酸)による殺菌効果がないことで腸への流⼊細菌量が増加したこと(図 2)、またそれ による腸内細菌叢の変化による免疫応答があった、胃が無いことで⾷物の消化不⾜による未消化物を抗原とする免疫応答、などが挙げられました。こういった結果を論⽂にまとめたところです(Colonic lymphoid follicle hyperplasia after gastrectomy in rats. Acta Histochem Cytochem. 2022 55(2): 67-73 )。

 胃は強酸性の環境であることから⾷物の消化、貯蔵と殺菌が主な機能であると思われていましたが、近年の研究で胃にも⾃然リンパ球を介した特異な免疫環境が存在し、⼝腔から侵⼊した病原菌に対して防御機能があると考えられています。胃がないことで胃による免疫防御機構が働かないこ とも⼤腸リンパ過形成と何か関係がありそうです。 ⼤腸の結節性リンパ過形成はヒトでもみられ、特に⼩児にみられる病態で、⼀般的な症状は下痢、便秘、⾎便、腹痛といった軽い症状で、症状を呈さないことも多く、治療なしで、加齢とともに消失するとされます。⼀⽅、⼩児の腸重積症の原因となり、感染症、⾷物アレルギー、炎症性腸疾患(潰瘍性⼤腸炎、クローン病)の患者にみられるという報告があります。胃摘出で⼤腸リンパ過形成を引き起こした抗原物質を特定し、⼤腸における腸管免疫機構の働きと⼤腸リンパ過形成の関係を明らかにすることで、炎症性腸疾患やアレルギー疾患の発⽣機序の解明、治療法開発につなげたいと思っています。