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Blog 関西医療大学NOW!

 臨床検査学ユニットの矢野です。今回は子宮内膜細胞診を対象とした研究紹介をしたいと思います。
 子宮内膜は受精卵の着床に備えるために、卵巣から分泌されるエストロゲンとプロゲステロンの支配を受けて、増殖、成熟、剝脱とおおよそ28日間で劇的に形態を変化させることが大きな特徴です。卵巣機能が低下する更年期には、無排卵性周期による子宮内膜の不規則な増殖を経て萎縮していきます。無排卵性周期にみられる子宮内膜は増殖症や癌類似の形態変化を示し、細胞診断上の問題になることがあります。特に、無排卵性周期においてみられる変化のひとつである内膜腺間質破綻endometrial glandular and stromal breakdown(EGBD)においては、内膜間質細胞に起こるアポトーシスによる破綻出血が生じ、退行性変化としての細胞質変化(化生)に修飾された内膜腺細胞が癌細胞に過剰判定されることがあります。その組織像は出血やフィブリンの析出がみられる中、内膜間質の脱落に起因する内膜腺の断片化や、変性凝集を起こした内膜間質細胞が観察されます。増殖期の内膜腺細胞、EGBDにおける好酸性細胞質変化(化生)を伴う表層被覆上皮細胞、内膜増殖症の内膜腺細胞、高分化類内膜癌の癌細胞の核面積を比較してみると、EGBDと高分化類内膜癌との間に有意差はみられないことがわかります(図)。核腫大は悪性腫瘍を疑う重要な指標ではありますが、ホルモン不機構内膜においては総合的な判定基準による診断が必要です※1)。また、EGBDにおける好酸性細胞質変化(化生)を伴う表層被覆上皮細胞の核腫大した細胞は、免疫組織化学染色法でp53 protein抗体に陽性を示す割合が高く、漿液性癌との鑑別が必要となることもあります。Laser Microdissection (LMD)法を用いて、組織切片から当該部位を切り出し、PCR法による遺伝子解析を行うことにより、p53遺伝子が野生型であることを証明する研究も行いました※2)。
 子宮内膜細胞診は、前述の性周期に伴う劇的な形態の変容に加えてホルモン不均衡をはじめとする多種多様な変化が加わることにより、さらに複雑なものとなります。癌細胞の早期発見という細胞診断最大の目的を果たすためにも、ホルモン不均衡内膜についての理解を深めることが非常に重要な課題であるといえます。

【文献】
※1) Shimizu K, et al. Endometrial glandular and stromal breakdown, Part 1: Cytomorphological appearance. Diagn. Cytopathol. 2006; 34: 609 – 613.
※2) Shimizu K, et al. Expression of Immunoreactivity and Genetic Mutation in Eosinophilic and Ciliated Metaplastic Changes of Endometrial Glandular and Stromal Breakdown: Cytodiagnostic implications. Annals. of Diagno. Pathol. 2009; 13(2): 89-95.