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 作業療法学ユニットの大歳です。自閉スペクトラム症児(以下,ASD)における感覚面の偏りについては従来から問題視されていましたが,アメリカ精神医学会が定めるDSM-5の診断基準の一項目として採用されました。感覚機能がうまく働かないことにより,危険な感覚情報に気づきにくかったり,他者にとって何でもない感覚刺激に対して過敏に反応したりと,日常生活に影響を及ぼす可能性が考えられています。また,手先やからだの使い方が不器用となり,道具の使用や黒板の板書など,集団生活や学業上での困難さが認められる場合ことが指摘されています。感覚の偏りの評価では,Dunn Wが提唱した年齢別の感覚プロファイルが1999年と2002年に作成され,国外ではスタンダードになっています。一方,国内では年齢の低い児から高齢者までを網羅できる感覚の評価が乏しい状況でしたが,原版を踏まえて各年齢別に日本版感覚プロファイルが検討され,2015年に日本版感覚プロファイル,日本版青年・成人感覚プロファイル,日本版乳幼児感覚プロファイルがそれぞれ作成され,客観的に生涯にわたり感覚面の評価が可能となっています。しかしながら,日本においては症例報告の際に使用されるケースが多く,年齢によりASD児の感覚刺激に対する反応傾向について,どのような特徴がみられるかに関する報告はない現状にありました。
 そこで私たちの研究グループは,感覚刺激の反応傾向を評価する日本版感覚プロファイル(以下,SP-J)を用いて,ASDまたはその疑いのある幼児と学齢児において感覚の偏りはあるか,さまざまな感覚刺激への反応傾向の特性がみられるか,について研究を行いました。SP-Jの象限項目である「低登録」「感覚探求」「感覚過敏」「感覚回避」の4項目,セクション別項目の「聴覚」「視覚」「前庭覚」「触覚」「複合感覚」「口腔感覚」「耐久性・筋緊張に関する感覚処理」「身体の位置や動きに関する調整機能」「活動レベルに影響する運動の調整機能」「情動反応に影響する感覚入力の調整機能」「情動反応や活動レベルに影響する視覚の調整機能」「情動的・社会的反応」「感覚処理による行動のあらわれ」「反応の閾を示す項目」の14項目,そして因子別項目の「感覚探求」「情動的反応」「耐久の低さ・筋緊張」「口腔感覚過敏」「不注意・散漫性」「低登録」「感覚過敏」「寡動」「微細運動・知覚」の9項目のスコアに着目して,幼児群と学齢群に分類し,比較検討しました。
 象限項目の「低登録」「感覚探求」「感覚過敏」「感覚回避」の4項目において,1項目でも「高い」「非常に高い」と回答した保護者は,幼児では44名中32名(72.7%),学齢児では47名中40名(85.1%)と,いずれも高い割合で感覚の偏りがあることがわかりました。
 幼児群と学齢児群のSP-J得点を比較した結果,象限別得点では,「低登録」「感覚回避」の2項目,セクション別得点では「聴覚」と「複合感覚」の2項目,そして因子別得点では「情動的反応」「不注意・散漫性」「低登録」の3項目において,学齢児群の得点が幼児群よりも有意に高い結果を示しました。このことから,自由度のあるクラスの人数が少ない幼稚園や保育所よりも枠組みが決まっておりクラスの人数が多い小学校において,上記の感覚の問題が強く生じていることが考えられました。そのため,小学校内の環境について,刺激をより少なくする支援や「何を今どれくらいするか。」といった環境を構造化したわかりやすい支援が重要であると考えます。

(参考文献)
大歳太郎, 倉澤茂樹, 中井靖, 大歳美和:自閉スペクトラム症児における日本版感覚プロファイルを用いた感覚反応に対する幼児と学齢児の比較.保健医療学雑誌14(1):10-15,2023