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修了生の研究紹介

令和元年度

令和2年2月3日(月)、令和元年度公開発表が開催されました。大学院2年生8名の研究が発表され、活発な討議がなされました。それぞれの発表を紹介します。またすべての研究は、関西医療大学倫理委員会の承認と研究対象の方からの同意を得た上で実施されています。

「リクライニング座位角度における頭部の前屈位置が及ぼす舌骨上筋群の筋活動変化」
西川 正一郎

舌圧や喉頭挙上の時期と舌骨上筋群の筋活動量をもとに、嚥下に良好なリクラニング角度と頭部角度の検討を行った。健常成人12名(平均年齢23±3歳)を対象とし、リクライニング角度や頭部角度による6条件の姿勢をもとに、舌圧や舌骨上筋群の表面筋電図、高速度カメラ、5件法による主観的評価を計測し、比較検討を行った。
顎舌骨筋の随意収縮強度は、筋収縮開始から舌圧ピークの期間でリクライニング60度・頭部屈曲位が右側24.9%、左側24.8%、リクライニング30度・頭部屈曲位では右側16.2%、左側16.3%で有意差を認めた(右側p=.07、左側p<.01)。
リクライニング座位における頭部屈曲位は、筋活動量に変化を与えることが示唆された。

「肩甲板点への鍼刺激が股関節外旋可動域に与える影響」
寺岡 祐助

腋窩部下方に位置する肩甲板点への一側鍼刺激により、股関節外旋可動域の拡大、および腰臀 ・大腿部の皮膚温上昇がみられるかを検証した。対象は、股関節外旋制限を有する健常者9名(平均20歳)であった。
恒温恒湿室にて順応後、両側股関節可動域と腰臀・大腿部の皮膚温測定を行い、外旋制限反対側の肩甲板点への刺鍼、1分間の雀啄刺激後、同測定を行った。同一対象者にウォッシュアウト期間を設けて、無刺激時も同手順で測定した。
鍼刺激により、対側の開排動作の可動域(ベッド面からの距離)が拡大した(変化量:鍼刺激-0.07cm、無刺激0.06cm)(effect size[ES](d=1.71, r=0.65)、P=0.005)。また、鍼刺激により、対側の大腿前面の皮膚温低下が抑えられた(変化量:鍼刺激-0.18℃、無刺激-0.4℃)(ES(d=1.04, r=0.46)、P=0.06)。
肩甲板点への鍼刺激は、刺激反対側の股関節外旋可動域(開排動作)を拡大させることが示唆された。一方、可動域拡大に対する皮膚温の影響は不明瞭であった。

「リズミカルな運動の再生に適した刺激回数と刺激間隔の検討」
粟田 由以

聴覚刺激の呈示後、リズムミカルな運動の再現に適した刺激間隔と刺激回数を検討することとした。
健常者13名(平均年齢26.2±6.2歳)を対象に、聴覚刺激呈示後に30回の足踏みをおこなった。聴覚の刺激間隔は500ms、1000ms、2000ms、刺激回数は2回、3回、5回、10回の12種類とした。
解析対象は30回の足踏みによる29個の時間間隔とし、検討項目は足踏みの間隔の絶対誤差、変動係数とした。
二元配置分散分析の結果は絶対誤差、変動係数ともに交互作用に有意差を認めず、主効果(刺激間隔間)に有意差を認めた(p<0.05)。
交互作用は有意差を認めず、どのような刺激間隔でも聴覚刺激を2回以上呈示するとリズムを認識し、足踏み運動の再現ができる可能性が示唆された。さらに刺激間隔の要因に主効果を認めており、刺激間隔の違いにより適した刺激回数によってリズムの認識が変化する可能性が考えられた。

「立位下方リーチ肢位保持における体幹・骨盤・股関節のアライメント変化と、多裂筋・最長筋・腸肋筋の筋活動について」
池田 匠

立位下方リーチ肢位保持を課題とし、リーチ距離の変化に伴う姿勢変化と、多裂筋・最長筋・腸肋筋の筋活動の変化について検討した。
対象は健常成人男性15名(25.1±2.9歳)であった。立位にて両指尖を両足尖へ向けた開始肢位より、指尖を足尖に向かって2cmきざみで最大16cmまでリーチさせ、各肢位を保持させた。各課題試行中の胸椎・胸腰椎移行部・腰椎・骨盤・股関節の角度変化と、多裂筋・最長筋・腸肋筋の筋電図を測定した。
腰椎屈曲角度は開始肢位から漸増し、8㎝以降で明らかな増大を認めた。各筋の筋活動は、リーチ距離の延長に伴い増加傾向を示したが、有意差は認められなかった。
腰椎屈曲角度の増大は、立位下方リーチ肢位保持の構成要素として重要であると考えた。多裂筋、最長筋、腸肋筋は本課題の腰椎の屈曲制動に際し、必ずしも関係しないことが示唆された。

「Box and Block Testを用いた運動イメージ終了直後の脊髄運動神経機能の興奮性の変化について」
小川 智大

Box and Block Test (以下BBT)の運動イメージ終了直後の脊髄運動神経機能の興奮性を、F波を用いて検討した。
対象は右利きの健常成人20名とし、BBTの運動イメージは、1分間で出来るだけ速くブロックを移動させた。F波は、右正中神経(手関節部)への最大上刺激で右母指球の筋腹上より導出し安静時、運動イメージ中、運動イメージ終了直後に30秒間、2回連続計測した。検討項目は、各試行の振幅F/M比とした。
振幅F/M比は、安静時と比較し運動イメージ中、運動イメージ終了直後から30秒後で増大した(p<0.05)。
手を握る運動イメージ終了後20秒間、大脳皮質の興奮性が増大したと報告されており、本研究はBBTの運動イメージ終了直後から30秒間、大脳皮質の興奮性が増大し、下行性線維を介し脊髄運動神経機能の興奮性が増大したと考えた。
BBTの運動イメージ終了直後から30秒間、脊髄運動神経機能の興奮性は、安静時と比較し増大する事が示唆された。

「立位での前方体重移動における姿勢変化および筋活動変化の検討」
野瀬 晃志

理学療法場面では、立位における前方への体重移動(前方移動)を実施することがある。しかし、最大前方移動に至る前に体幹屈曲が起こり、直立位を保持できない症例を経験する。そこで、前方移動時の姿勢変化と筋活動を明らかにすることを目的とした。
研究対象は健常男性10名とし、直立位から前足部へ最大限体重を移動する課題を実施した。測定項目は姿勢変化、筋電図変化、足底圧中心(COP)変化とした。姿勢変化は体表にマーカーを貼付して分析した。筋電図は多裂筋、最長筋、腸肋筋、腹直筋、腓腹筋の筋活動パターンとRoot Mean Square(RMS)を検討した。
下腿と骨盤は前傾し、下部腰椎には伸展を認めた。この時、早期から腓腹筋、多裂筋に筋活動増大を認めた。RMSは多裂筋(L4・S1)、腓腹筋に筋活動増大を認めた。また多裂筋(L4)よりも多裂筋(S1)の方が高かった。
前方移動では下腿・骨盤の前傾に対して、早期から多裂筋(S1・L4)が活動し、腰椎を伸展位に保持することが重要であった。

「口頭指示の有無が重量物持ち上げ動作の姿勢変化に与える影響について
―対象物離床の瞬間に着目して―」
村岡 秀映

持ち上げ動作の対象物離床時において、Squat法を指示することでの姿勢変化と腰椎肢位に影響を与える下肢関節を検討することとした。
対象は、健常男性15名(23.8±1.0歳)であった。測定課題として、自由条件・Squat条件を設定し、床から対象物を持ち上げさせた。対象物離床時の2条件間での各関節角度の差は、対応のあるt検定を用いて検討した。加えて、Squat条件における腰椎肢位に影響を与える要因を検討するため、下肢関節角度との相関関係を検討した。
Squat条件では、胸椎角度、胸腰椎移行部上部角度、下部角度、腰椎上部角度では伸展角度、骨盤角度では後傾角度、股関節、膝関節角度では屈曲角度、足関節角度では背屈の増加を認めた。また、腰椎上部角度は、股関節角度と関連した。
Squat法を指示することで、体幹伸展、下肢屈曲角度は増加する。Squat条件における腰椎上部角度は、股関節角度に関連することがわかった。

「内腹斜筋の表面筋電図における電極位置の検討」
森川 智貴

内腹斜筋(以下、IO)は異なる線維の走行を有し、各線維の働きは異なるため作用を検討する必要がある。そこで、エコー装置を用いてIO各線維の電極位置を検討した。
健常男性12名(24.3±2.2歳)を対象に、上前腸骨棘から2㎝内下方をEとし、Eからの垂線と第八肋骨下縁の交点をAとした。その線AEの頭側から1/4ごとをB、C、Dとした。線AEとその外側1㎝と内側1、2㎝の線上においてエコー動画を描出し、IOの走行を確認した。
全対象にて、Aで外腹斜筋(以下、EO)は描出され、IOは描出されず、B、CでEO、IOが描出された。Dで、全対象でIOが描出され、EOは上前腸骨棘から離れるにつれて描出される対象者は減少し、Eで、全対象でEOは描出されず、IOは上前腸骨棘から離れるにつれて描出される対象者は増加した。
上前腸骨棘から2㎝内上方がIO斜行線維、2㎝下方、4㎝内側がIO横行下部線維の電極位置であることが示唆された。