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Blog 関西医療大学NOW!

 臨床検査学ユニットの上北宏美です。
 これまで脂肪細胞は単にエネルギーの貯蔵と供給を行う臓器として考えられてきましたが、アディポサイトカインと呼ばれる生理活性物質を分泌する内分泌臓器であることがわかっています。アディポサイトカインには、TNF-α、IL-6などの炎症性アディポサイトカインと、APNに代表される抗炎症性アディポサイトカインがあります。肥大化した脂肪細胞ではアディポサイトカインの産生調節の破綻が起こり、糖質・脂質代謝異常などを引き起こし、メタボリックシンドロームの関連障害の発症に深く関与していると考えられています。
 APNは脂肪細胞から分泌されますが、BMIおよび内臓脂肪面積と有意な逆相関を示します。血中濃度は5~10 μg/mLですが、冠動脈疾患患者と健常者との比較検討から、4 μg/mL未満であると冠動脈疾患有病率を2倍に増加させることが証明されています。また、動脈硬化進展過程で見られる血管内皮細胞のアポトーシス・マクロファージの泡沫化などをAPNが抑制することや、アポE欠損マウスにAPNを過剰に発現させると、動脈硬化プラークを減少させることが報告されています。これらの研究からAPNには抗動脈硬化作用があると考えられていますが、その作用機序について不明な点が多く、未知の結合蛋白質の存在が考えられています。
 私はこれまで所属した研究グループで、新規APN結合蛋白質として培養肝細胞モデルからE-selectin ligand-1 (ESL-1)を、ヒト血中からMac-2 binding protein(Mac-2BP)を同定し報告しました。ESL-1とAPNが結合することで、動脈硬化初期段階でみられる白血球のローリングを阻害し抗動脈硬化作用を示すことを見出しました。また、Mac-2BPとAPNの複合体量が冠動脈疾患患者で著増していることを明らかにしました。これらのAPN結合蛋白質の機能を解析することで動脈硬化の新しい診断マーカーや治療方法に応用できる可能性があります。現在、世界の死因の約3割を動脈硬化性疾患が占めており、世界的な健康問題となっています。引き続きAPNの抗動脈硬化作用と結合蛋白質について研究し、動脈硬化性疾患患者の減少に寄与したいと考えています。