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Blog 関西医療大学NOW!

 作業療法ユニットの稲本です。作業療法士を含めたリハビリテーション職種は,患者に個別対応をするため,個人に高いリスク管理能力が求められます。有名なアンダーソンの運動基準では,血圧は収縮期血圧(上の血圧)が200mmHg以上であると,運動を行わないほうがよいと定められています。そのため,明らかに中止基準を超えている血圧が測定された場合,訓練を中止し主治医に報告となりますが,中止基準に近い数値が測定された場合はどのように判断したらよいでしょうか。このように,実際の臨床現場では,測定値の臨床的意味を過去の医学的知識と臨床経験と照らし合わせて,比較的瞬時に判断していると考えられます。しかし,このような過去の記憶・経験に基づく臨床的な判断は,学校教育の中でも成長するのでしょうか?
 そこで,異常な血圧測定値を観察したときの注意の違いを,授業での学習と臨床実習を経験した作業療法学科の4年生と未学習・未経験の1年生で比較してみました。注意力は指標としてよく用いられるP300という脳波成分を使用しました。実験の流れは図1をご覧ください(図1画像提示の流れ)。120mmHg, 180mmHg, 220mmHgの血圧値画像を,割合を変えつつランダムに提示した時の反応を測定しました。そして血圧値180と220の主観的な危険度を調べました。
 結果ですが,まず血圧値180と220の主観的な危険度は4年生の方が高くなりました(表1,血圧値の主観測度の統計結果)。4年間の勉強をすることで高血圧値に対してより危険だと感じるようになっている,ということになります。そして注意の違いについて,4年生は180mmHgに対して220mmHgへの反応が速くなる傾向がみられました(図2,学年ごとのP300aの総加算平均波形)。このことから4年生は1年生と比較して,高血圧値180と異常な血圧値220の情報の意味の違いを理解し,素早く注意を向けることができたと考えられます。
 はじめの疑問に戻りますが,学校教育による医学知識と臨床経験によって,血圧値に対する瞬時の反応が脳活動レベルで違いが出現するということが分かりました。では,転倒危険場面では違いがあるのでしょうか,など新しい疑問が出てきます。一つずつ解明していきたいと思っています。