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Blog 関西医療大学NOW!

基礎医学ユニットの東家です。
 突然ですが、高速道路のドライブでサービスエリアが近づいてくると路上の標識が教えてくれますね。ドライバーはその標識を見て徐々にブレーキをかけて分岐に入り、目指すサービスエリアに寄って休憩することができます。このときに標識とブレーキが無かったら、車はサービスエリアを通り過ぎてしまいます。
 では、身体の話です。私たちの血管の中を流れる白血球には免疫のはたらきを担当するリンパ球が含まれています。リンパ球は血液循環で体内を巡回しながら免疫細胞の基地であるリンパ節に立ち寄り、樹状細胞や他のリンパ球と抗原情報の受渡しをしたり、サイトカイン分泌で刺激し合ったりして、外敵との戦いに必要な情報共有と戦略形成を行っています。このとき重要なのが「リンパ球がリンパ節に立ち寄るしくみ」です。血管内を移動するリンパ球は、立ち寄るべきリンパ節がもつ特殊血管に差し掛かると血管表面の「標識分子」を認識して居場所を察知し、「ブレーキ分子」を使って通り過ぎないように減速して止まります。そして、まるで高速を降りる車のように血流から外れて免疫細胞の基地に立ち寄っています。このしくみがあることで、私たちは局所の免疫反応を全身の免疫力に拡げて外敵と戦うことができるのです。
 そこで、移動するリンパ球の標識やブレーキとなる分子(接着分子PNAd、ICAM-1)がリンパ節の特殊血管(高内皮細静脈)の表面で示す分布パターンを調べるため、分子の局在を可視化する免疫組織化学と電子顕微鏡を組み合わせた解析を行いました。
下図が示すように、末梢リンパ節高内皮細静脈の標識分子PNAdは内皮細胞間に発達する突起構造に一致して高密度に分布していました。この分子は流れるリンパ球を軽く減速する機能も持つので、その際にはリンパ球と内皮細胞の突起同士の接触が重要と考えられます。また、リンパ球に強ブレーキをかけるICAM-1は内皮細胞の突起ではなくて膜の平坦な部分に高発現していました。これは、血流に抵抗してリンパ球を血管表面に強固に止める接着力を生む上で合理的な分布パターンです。
このように、機能分子の局在を形態学の手法で精査すると、体内の微細な領域で起きている生体現象を時空間的に考察して理解を深めることができます。

(参考文献)
Kazuo Tohya, Eiji Umemoto and Masayuki Miyasaka. Microanatomy of lymphocyte-endothelial interactions at the high endothelial venules of lymph nodes. Histology and Histopathology 2010 Jun;25(6):781-94. doi: 10.14670/HH-25.781.