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コミュニケーションについて研究してみよう
基礎看護学ユニットの狩野です。皆さん、こんにちは。
 みなさんは2者関係において、「〇〇さんは、△△だと思っているんだろうな」という考えの元、「(自分は嫌だけど〇〇さんの思いに沿って)△△している」といったことはありませんか?ここでのポイントは、「自分は嫌だけど」+「相手の思いを汲み取って」自分の行動を決めている。ということです。この状況が長く続くと相手への不平不満が溜まってくるのは想像できると思います。しかし、ここで自分が想像している相手の考えですが、相手の方は本当にそう思っているのでしょうか?
 私は臨床心理学の視点から子育て期の夫婦を対象に研究を行ってきました。研究テーマのひとつは、コミュニケーションです。その中でも「2者関係におけるコミュニケーションの差異」、すなわち「ズレ」に注目しました。例えば、『性役割観』という『男性は外で働き女性は家庭を守るといったそれぞれの性別にふさわしいと期待されている分業意識』があります。この考えが良いとか悪いではなく、人はそれぞれ自分の価値観として持っているものです。この考え方などについて、同じ尺度を用いて「あなたはどう考えていますか?」と自分の考えを問うと同時に、「パートナーはどう考えていると思いますか?」とパートナーの考えを推測してもらうという質問紙を作成し、ペアデータを収集しました。そして、|自分-推測したパートナーの考え|の【推測値との差得点】を算出しました。この得点が小さいほど、『自分と相手の性役割観は同じだろう』ということとなります。この得点が大きいほど、『自分と相手の性役割観は違うだろう』となるように得点化しました。同時に、家族のライフステージにも着目しました。夫婦は新婚期から子育て期へと家族が発達していくに伴い、夫婦それぞれの役割も変化し、対応せざるをえなくなります。そこで、第一子が未就園児、保育園・幼稚園、小学生、中・高校生、大学生の子どもをもつ夫婦ペアをライフステージに沿って、それぞれ約50組、合計270組(540人)に協力をいただき、横断研究を行いました。
 夫婦の性別とライフステージによって【推測値との差得点】が異なるかについて、統計的な分析を行った結果、妻群の方が夫群より性役割観の【推測値との差得点】が有意に高いことが示されました。また、第一子が未就園児のころは、【推測値との差得点】が同程度であったものが、次第に妻群の【推測値との差得点】が大きくなり、反対に夫はその差が減少傾向にあることで、次第に夫婦間の齟齬が生じていく様相が窺われました(図)。

                                                  

 すなわち、ライフステージが進むにつれ、『“私と夫の性役割観は違うだろう”と考えている妻群』と『“僕と妻の性役割観は比較的同じだろう”と考えている夫群』という具合です。関係が長くなると“言わなくてもわかってくれてる。きっとこうだろう”と多くを語らなくなってしまうこともあります。また、また相手の思いを汲み取って察する方が良いというイメージもありますが、それは、本当に相手の思いにフィットしていること、自分に無理がない場合であると思われます。“相手はこう思っているだろう”は実際に相手の方に聞いてみなければわからないですし、相手の方も言葉にして伝えないと伝わらない。ということです。かといって、語っていることがその言葉通りともいえないのが難しいところではありますが、相手との齟齬を小さくしていくのは、やはり丁寧な会話、コミュニケーションであると思います。同様に、『何も言わなくても察してほしい』も難しいことです。対人関係の困り事を紐解いていけば、きっかけは小さな誤解だった、ということもよくあります。丁寧なコミュニケーションを心がけていきたいものです。
 こうした研究は、調査のフィールドや使用する尺度を変えると応用が可能です。例えば、医療の場面において考えてみると、「患者さんと医療従事者とのコミュニケーションの差異」や「新人スタッフと指導者とのコミュニケーションの差異」などにおいても研究が可能になると考えられます。今後、医療場面におけるコミュニケーション研究も行ってみたいと考えています。

参考文献
狩野真理 性役割観が夫婦関係満足度に及ぼす影響 -パートナーの性役割観を推測したペアデータを用いて-,家族心理学研究,32(2):81-94, 2019.