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 臨床検査学ユニットの上田一仁です。質量分析ってご存知でしょうか?2002 年に田中耕一先生(島津製作所)がノーベル化学賞を受賞されたことで、あるいは微生物検査室の中で細菌同定に用いられていることでご存知の方も多いのかもしれません。簡単に言うと、試料(血清、尿、組織、細胞等)中の物質を質量の違いによって分離して、その量や質を特定していく技術になります。これまで我々はその技術を利用して種々の研究を行ってきました。
 例えば、担癌患者血清中には種々の特異的な自己抗体が産生されることが知られています。各種培養細胞を試料に、2 次元電気泳動を流し、担癌患者血清を 1 次抗体としてウエスタンブロットを行うと、これらの自己抗体と反応するスポットが得られます。そのスポットを切り出し、質量分析を行うことでその対応抗原が判明します。これまでに、肺癌では抗α-エノラーゼ抗体、胃癌では抗 GRP78 抗体、膵癌では抗 TIM 抗体などを同定してきました。また固形癌だけではなく非ホジキンリンパ腫では抗 L-プラスチン抗体が高頻度に認められることも報告してきました。これらの自己抗体は癌のバイオマーカーになるとともに、これらの自己抗体が担癌患者の体内でどのような振る舞いをしているのかを解析する事は病態把握に重要な示唆を与えてくれます。
 また、尿中にも種々の蛋白やエクソソームなどが存在し、質量分析のターゲットとなります。尿中に存在する物質の中に、多発性骨髄腫患者で高頻度に認められるベンスジョーンズ蛋白(BJP)があります。現在、BJP の同定には免疫電気泳動法や免疫固定電気泳動法が用いられていますが、これらの手法には「特異抗体」が必要でランニングコストの高さが問題となります。上述したように、質量分析技術は質量の違いから蛋白を同定できるため「抗体」は必要ではなく、安価な酵素さえ準備できれば解析できることになります。質量分析を用いて同定し得た BJP の解析結果を図に示しました。まだ改良の必要はありますが、安価でハイスループットな尿中蛋白検出方法の確立が期待されます。
 一方、イメージング技術を利用することで組織内での目的蛋白の局在を知ることができます。これまでアルツハイマー患者脳組織切片を用いて、アミロイドβ等の蛋白質の局在や肺癌患者の肺組織切片中に、免疫グロブリンλ型 L 鎖の沈着を証明してきました。これらはコンゴレッド染色や DFS 染色あるいは対応抗体を利用した免疫染色の結果と一致したことから、イメージング質量分析技術は、従来の病理診断に相補的・補助的情報を提供出来る新しい解析手段となる可能性が大きいと考えられます。また、法医学領域では毛髪中のメタンフェタミンの半定量的局在を検出することで、覚醒剤の使用を時間軸で証明することもできます。
 以上、質量分析は解析ツールの一つとして有用な技術となります。本学には現時点で質量分析装置がございませんので、学外での研究となってしまいますが、ご興味があればお声かけください。