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Blog 関西医療大学NOW!

 作業療法学ユニットの伊藤恵美です。自動車運転は、通勤や買い物、レジャーなど我々の生活に必要で高度な技能を要する活動です。高齢期に増加する「認知症」と診断された人は、運転免許証が取り消されますが、脳卒中や頭部外傷などで、脳を損傷した人は自動車を運転してもよいのでしょうか?
 脳損傷者が安全に運転をするためには、視覚・聴覚はもちろん、注意や記憶などの認知機能・交通環境の予測能力・判断力・運転操作技能が保持されていることが求められます。しかし、脳損傷者の運転の可否判断をする明確な基準は提示されていません。現時点では作業療法士や心理師らの行う神経心理学的検査や運転シミュレータの評価結果等を踏まえ、医師が免許の停止や取り消しに該当する病気ではないことを診断し、診断書を運転試験場に持参して臨時適性検査(運転適性評価と必要な検査)を受け公安委員会が運転免許の更新や停止、取り消しの判断を行っています。
 我々は、脳損傷者のうち、神経心理学的検査や運転シミュレータ評価で一定の基準を満たし、本人も運転再開を希望しかつ主治医が路上運転評価の指示をした軽度高次脳機能障害者を対象に、2台のカメラと急ブレーキや急ハンドルなどの危険挙動を検知するドライブ・レコーダーを搭載した教習車両を用い、都市部の路上で実車運転評価を実施してきました。この研究の目的は、高次脳機能障害者の運転技能の特徴を客観的に捉え、実車運転評価の開発を行い、運転再開に向けた支援に役立てることです。
 結果の一部として対象者16名中6名に危険挙動(図1)が検出され、その事象は8件の急ブレーキ、5件の粗雑な回転、2件の張り出した右左折、1件の急加速でした(図2)。専用ソフトウエアにより抽出された運転得点を運転教習指導員(模範運転者)の得点と比較したところ、脳損傷者はブレーキ得点で有意に低下しており(t=2.564, p<0.05 )(図3)、カメラ映像から、急ブレーキは、信号変化や先行車両の動きへの不注意と予測不十分のために生じていたことがわかりました。また粗雑な回転は、交差点に進入する時に十分に減速していないことにより生じていました。
 これらの結果は、我々作業療法士には脳損傷者への自動車運転支援時のフィードバックやカウンセリング、認知リハビリテーションに利用でき、更に運転再開の適性判断の一助となっています。また対象者自身にとっては運転の自己モニタリングに役立っています。現在は一般健常者の運転技能との比較をして、脳損傷者の運転特徴をさらに検討を続け実車運転評価の開発を目指しています。