FACULTY
/GRADUATE SCHOOL
Blog 関西医療大学NOW!

 理学療法学ユニットの福本です。今回は、指先の不器用さに関わる研究成果について紹介します。
 職人は年齢が高いほどその芸術性が高い、いわゆる”匠の技”のようなことは古くから言われておりますが、一方で指先の不器用さに関わる訴えは、歳を重ねるほどに多くなっている印象があります。さらに、指先の不器用さに関わる自覚症状の訴えがあるものの、臨床検査上は客観的所見に乏しく、原因となる病気が見つからない状態、いわゆる“不定愁訴”であることも臨床上は多くあります。では、この指先が器用であるか否か(手指巧緻性)を決定づける神経生理学的背景は何なのか?運動神経と感覚神経の伝導速度の違いから検討を行いました。
 今回紹介する研究は、私と、同じ理学療法学ユニットの鈴木俊明教授、花王株式会社との共同研究として行われたもので2023年に国際誌Experimental Brain Researchに掲載されました*。この研究では、若年者30名(21~34歳)と高齢者30名(60~74歳)の前腕部での神経伝導速度を運動神経と感覚神経を対象に計測しました。さらに、ペグ(釘)をつまんで穴の開いたボードに差し込んでいく運動課題において手指巧緻性の評価、質問指標を用いた運動機能・痛み・しびれに関する自覚的愁訴の聴取を行いました。これら計測指標を若年者と高齢者で比較すると共に、各データ間の相関関係を確認しました。
 結果、若年者と比較して、高齢者では運動神経も感覚神経も共に伝導速度が遅く(ただし病的な域には達しない程度)、手指巧緻性も低い(つまり不器用)であることが分かりました。さらに興味深いのは、手指巧緻性の低さに関わっていたのは運動神経伝導速度の遅さのみで、感覚神経伝導速度の遅さは、実際の手指巧緻性の低さとは関係せず、手指巧緻性低下についての自覚的な訴えを生み出していたと分かりました。
冒頭の話題に戻ると、実際に手指が不器用であるか否かを決定づけるのは運動神経が関わるようですが、その結果とは関係なく手指が不器用であると当人に感じさせるのは感覚神経であるようです。これらの傾向は若年者ではなく高齢者において認められました。職人は年齢が高いほどその芸術性が高い・・・とは限らないのかもしれません。ある意味、若い人が正しく職人技を学べば、これまでよりも高い芸術性 “匠の技” に至るのかもしれません。

*)Fukumoto, Y., Wakisaka, T., Misawa, K., et al. (2023) Decreased nerve conduction velocity may be a predictor of fingertip dexterity and subjective complaints. Exp Brain Res. 241, 661-675.