2024年07月05日
尿路上皮癌におけるヒトパピローマウィルスの関与について(小椋聖子)
臨床検査学ユニットの小椋です。今回は、膀胱癌とヒトパピローマウイルス(HPV)の関連性について腫瘍組織と尿細胞診を対象に行った研究1)を紹介します。
ヒトパピローマウイルスはその感染により腫瘍が発生する腫瘍ウィルスの一つで、発癌する臓器として子宮頸部や中咽頭がよく知られています。膀胱においても1988年にKitamuraら2)が尿路上皮癌(以下UC)でヒトパピローマウイルスを検出してから、膀胱癌との関係について数多くの研究が行われていますが、その発癌性については、子宮頸癌や咽頭癌と違って未だに十分な証拠は得られていません。本研究ではUCへのヒトパピローマウイルスの関与を知るために、確定診断のついたUCの癌組織のパラフィン包埋ブロックを用い、p16タンパクの免疫組織化学(以下IHC)、ヒトパピローマウイルスDNAのin situ hybridization(以下ISH)を行い、パピローマウィルス陽性UCと陰性UCに分類し、術前尿細胞診像に相違があるか検討を行いました。パピローマウィルス感染のマーカーとされるp16タンパクがIHCで陽性を示した症例のうち、ISHによりウィルス陽性となったのは11検体、12.1%(Fig.1)で、陽性シグナルでは全例、ヒト細胞へ組み込まれた状態であるpunctateというパターンを示しました(Fig.2)。
ただ、ウィルス陽性症例と陰性症例の間では、性別や異型度、浸潤の有無による統計学的有意差は認められず、術前尿細胞診像においても腫瘍細胞(Fig.3)、非腫瘍細胞(Fig.4)ともに相違は認められませんでした。
ヒトパピローマウイルス感染の有無による細胞像の違いが認められなかったことについては、本研究では陽性シグナルが全例punctateパターンであり、子宮頚部で感染を示す細胞のepisomalパターンとは異なっていたこと、ウィルス検出方法の感度などに原因があると考えています。また、今回用いたISH法はパラフィン包埋ブロックを使用できる利点はあるものの、低感度が欠点とされており、PCRや超高感度ISH法を用いることにより、真のウィルス陽性を検出し、陰性症例と比較することで細胞像や組織像に相違を認められる可能性があります。実際、MusangileらはRNAscope™という方法を用い、UCの中では扁平上皮への分化を伴うタイプのヒトパピローマウイルス感染率が高かったことやこの方法がUCでのウィルス検出に理想的な方法であることを報告しています3)
今後、新しく開発された技術の利用やそれらを用いたデータの蓄積により、UCの発癌において、HPV感染がどのように関連しているのか、あるいは発癌には関与していないのか、決着がつく日も近いかも知れません。
参考文献
1) Ogura S et al. J. Cytol. Histol.6:325(2015).
2) Kitamura T et al. Cancer Res. 8:7207-7211(1988)
3) Musangile FY et al. Cancer Med. 10(16):5534-5544(2021)